作戦と嵐4
「まさかゼイドの壁を破るとはね」
呂律もちゃんと回っているし、全くふらついたりしていない。
酔い潰れたように見えてたのは演技だったのか……
サグアノが軽く手を振ると、彼の横から一筋の稲妻が走り待機していた水精霊に当たる。ただでさえ疲弊していた水精霊は避けることができず苦しげによろめいた。
「……精霊使いだったんですね」
「君ほどじゃない。でも今の君はだいぶ力を使い果たしただろう。あの壁はゼイドが特に力を入れて張っていたからな」
破られたことに驚いてはいるが、その表情には全く警戒心や危機感というものは感じられない。
「帝国の目的が何なのか、どうして私が帝国のためになるのかとか一切知りません。でも私はアリュの家族やカーレル様、友人たちにこれ以上迷惑はかけられない。どうしてもと言うのなら、事情をちゃんと話した上で依頼するなりしてください」
別にダルネミア帝国に恨みがあったりなんてしない。国民のためとかで本当に必要なら言ってくれれば、私はできることをしただろう。もちろん借りにはするけれど、帝国だって国の危機ならその程度の貸しは痛くもないだろうに。
「それが簡単にできれば苦労はしない」
サグアノはそう言って再び腕を振った。
次は火精霊と氷精霊が同時に苦しげに呻く。
「……ここの船室の壁は厚い、僕の相手をして、かつ壊すだけの力が残っているのか?」
私は何も言わない。
唯一の武器である精霊が疲れ切って使えず、彼は自分が有利だと思っている。その隙を付ければいい。彼の言う通り、壁を破るのは無理だろうから、今破れるのは扉か……
しかし、破る力があるのはここではもう雷精霊のみ。他の精霊はこれ以上無理をさせられない。
いや……サグアノを倒す必要はない。目眩しでも隙さえ作ることができればそれでいい。
サグアノの目の前で何かが爆発したような眩い光球が現れて彼の視界を一時的に奪う。そしてそのあとすぐ、部屋が真っ暗になった。
あらかじめ目を瞑って少しだけ闇に慣れておいたので、これで動ける。
自分の中の何かが減っていくような、そんな気がした。
精霊の使役は、精霊だけの力を使うだけではない。人間の側も、確実に何かを消費しているのだ。それが何なのかはよくわかっていないらしいが。
私は杖を掴み、できる限り速く扉へ向かった。サグアノとのすれ違いざまに、その腹部に杖の持ち手の部分で一発食らわしておく。
鍵を壊して廊下に出ると、全員が街に出ているのかそこには誰もいなかった。
急いで甲板に出ようと扉を開けると、廊下に一気に暴風と雨粒が吹き込んできて私は思わず怯んでしまう。
これは確かに停泊することになったのも頷けるな。こんな嵐、アリュでは十年に一度くらいのものだ。
って、自然に感心している場合じゃない。早く海に行かなきゃ……
雨粒で全く先が見えず、暴風と船の揺れと足のせいでなかなか先に進めない。やはりこれは無謀だったかな。
ストックが少々あるからといって油断してはならないのはわかるのですが、貯められない時ほんとうに貯まらない…




