作戦と嵐2
サグアノの言った通り、船は夕方にプルカという港に到着した。
船の揺れが緩やかになり、少しホッする。
まあさっきまで昼寝してて到着に気づいてなくて気分的に、だけど。
やがて、パンと野菜と肉、そして酒を持ってサグアノとゼイドがやってきた。
「これでよかったか?」
「十分です。そもそも私は贅沢言える身分じゃありませんから」
食べ物を粗末にするわけありませんよ。パンは香りからして出来立てっぽいし、野菜の葉っぱは瑞々しいから、結構いいものだろう。肉は頼んでないけど結構美味しそうだ。
そう話している間に、ゼイドが机を持ってきて港で買ってきたらしい食べ物を並べ始めていた。
少しして食事の準備が完了したので、私は上半身を起こしてまずはパンに手を伸ばす。
しばらく私は無言でパンと野菜を食べていた。焼き立てらしいパンはまだ温かく芳ばしく、野菜もしゃっきりしてる。肉も少しつまませてもらっただけだけど、脂身の少ない赤身を香辛料を効かせて焼いたもので美味しかった。
あともう少しというところまで食べ終えたところで、サグアノが酒の入った杯を差し出してきた。
彼は既にいくらか飲んでおり、酒の入っていた瓶の栓は開いていて中身が三分の一ほどがなくなっている。
杯を受け取って中の酒を見てみると、鮮やかな黄色の酒が並々と入っていた。特に怪しい様子もなかったし、味が気になるというのもあったので少しだけ飲んでみる。
きつめの見た目に反してさらりとしていて飲みやすく、甘味の強い果実酒だった。甘さと飲みやすさで誤魔化されるが、割と強めの酒だ。
まあ、飲めないことはない。むしろよく飲むくらいの強さだから大丈夫だろう。というか、久しぶりに飲むお酒って美味しいな。干した魚といういい感じのつまみもあるし。
そうして酒と肴を楽しみつつちまちま飲んでいると、わずかに顔を赤くしたサグアノが話しかけてきた。
「そういえば以前見かけたときに飲んでいたな。強いのか?」
「普通ですよ。ですが……一度もお会いしたことはないはずですが?」
それなりに強いけど、それは黙っておこう。それにしても、こんな分かりやすい男の事はさすがに一度会ったら忘れないだろう。それに一応ダルネミアの王子だし、忘れたらそれはそれで問題だ。
「何度か仕事で大陸に行っている。その時に何度か。まあ外交の、どちらかと言えば貿易についての仕事ばかりだから直接関わったことはないが」
どうやらサグアノにとっては初対面ではなかったらしい。
「通りで覚えていないはずですね。そうだ、ゼイドさんは飲まないんですか?」
「仕事ですので、今は……」
「こう言ってるが酒に弱いだけだ」
え、そうなのか。勝手に強いと思ってた。なんかそう言われると飲ませたくなる。するなって言われたことをしたくなるのが人の性だと思うんだよね。まあ今の私には別の目的があるけど。
残っていた分を一気に飲み干して次の分を注いでもらう。そいやサグアノって王子なんだよね。そんな人に酒を注いでもらうって結構貴重かも。あ、でも言い方変えるとこの人たち私にとっては誘拐犯か、状況的には何かがおかしい気がする。誘拐犯と酒飲むって……
この状況について考えるのは止めよう。ゼイドに酒を飲ませることができればそれでいいんだから。
「ちょっと飲んでみてくださいよ、一杯だけですから」
軽く酔ったふりをして私はゼイドに杯を渡す。すると意外とあっさり受け取ってもらえた。
「ですが仕事中……」
サグアノも酔っているのか、何か言い返すゼイドの杯に酒を注いでいた。意味はよくわからないが、飲めとかそういう感じのことを言っているのだろう。
ゼイドは主の言ったことに逆らえないと思ったのか、しばらく迷った後に一口それを飲んだ。
「もっと飲んでくださいよー、それとも飲めないんですか?」
けっこう出来上がった感じのサグアノに、杯を振ってちょっと嫌味っぽく言ってみる。
横を見てみると、ゼイドが赤い顔をして寝ていた。酒に弱いというのは本当だったらしい。だって渡したのあの一杯だけだから。
私、酒に強くてよかったな。
厄介なのはこの二人だし……というか、この二人以外の船員は私が誰でなぜここにいるのかも知らないようだ。だからこの二人を酔い潰す。そのために今日は昼からよく寝ておいた。
しばらくすると、だんだんろれつの回らなくなっていたサグアノが私のベットの方に倒れこんでくる。
……勝った。
二人が寝ているのを確認して、私は精霊たちに目配せする。
さて、始めるか。
久々に若干(一月分)のストックが出来上がりました。波に乗れたと思ったら再び沈みそうですが、休載とかにならないよう週一ペースで頑張っていけたらと思います




