誘拐犯の思い
誘拐犯兼王子サグアノ目線です
「ゼイド、水をくれ」
自室に戻って椅子に座り、自分より年上の部下に指示を出す。
「……やはり熱かったのですね?」
呆れた声でゼイドは言う。お見通しだったようだ。
何も入っていないと証明するために粥を食べたが、思った以上に熱かった。まだ舌がピリピリしている。
差し出された水を飲むと、治ったわけではないが冷やされていくらか楽になった。
「殿下、あのようなちょっかいをかけるのはお止めください。彼女は彼が欲した贄、しかも我々のところに自ら出てきて指名してきたのですよ」
諌めるようにゼイドは言い、空になった杯に水を注ぐ。
それを半分ほど飲んで杯を机に置いた。
「ああいうのはどうしても困らせたくなる」
意地を張っていたのか強がりか、とにかく抵抗されて仕返ししたくなっただけだ。
ゼイドはため息をつき目を伏せた。
「足のことについては、何を言いかけたのですか?」
「言ってもどうせ無駄になるようなことだ。目的は生かせて帝国まで運ぶこと。だからもうこのことは聞くな」
申し訳ないという思いが無いと言えば嘘になる。だが、国の存亡がかかっていることだ。私情を挟んではいけない。国を治める一族の一人として、教え込まれてきたことだ。
「……畏まりました。あとのことはデティアたちが向こうで上手くやるでしょう」
「そうだな」
どこもそうかもしれないが、帝国は各国に密偵を送り込んでいる。密偵といっても大陸の方との戦の心配はほぼないため国の情報を探るくらいでそれ以上の何者でもない。いざという時に役立つだろうというだけだ。
残った水を飲み干し、机の上の箱を開ける。
航海の間に捌こうと持ってきた書類の束、そこまで多く持ち込めないため処理に時間のかかるものを選んできたが、少なかったかもしれない。
書類と睨み合うこと数刻、途中までは平気だったが、段々と字が霞んできた。
ゆらゆら揺れる船の上でのこういう作業はつらい。酔いを和らげる薬を飲んではいるものの、やはり気持ちが悪くなってきた。
窓が無いから外を見ることもできない。甲板に出ればいいのだが、僕が行っても船員の作業の邪魔になるだけだ。
どうするか、思いついた時にはすでに立ち上がっていた。
「サグアノ様、どちらへ?」
追いかけてくるゼイドを手で制し、僕は部屋を出た。
彼女……レネッタの部屋に入ると、レネッタは寝息を立てて眠っていた。
粥に入れておいた薬が効いたようだ。一口食べるくらいなら全く効果の出ない、弱い眠り薬を仕込んでおいたのだ。弱い薬のため、徐々に違和感なく深い眠りにつくことができる。不眠に悩む者が使う薬だ。
窓もない殺風景なこの部屋では起きているだけで辛いだろうから眠らせよう。
まあ……ゼイドの意見だが。
アリュに向かう航海の途中で、拐う対象のレゲルが女だという報をすれ違った貿易船から受けた。その時は驚いておいたが、実際はそういう話をアリュのゲーテとかいう組織から聞いていた。本当に驚いたのはその時である。
まあ、実際に会ってみて、確かに男として通用していたことに納得がいった。あまり女らしくないし、あの図太さと態度を、普通の女は持っていないだろう。
そして何体もの強力な精霊を従える、類い稀な精霊使いとしての才能を持っている。
……彼女は我々の要求を呑んでくれるだろうか。無論、断らせる気はないが。
後期が始まりました
短かったなぁ、夏休み……
前半に自動車学校行ってたっていうのが効きましたね
免許取れたからいいですけど笑




