船の上6
……暇だ。
ベッドに寝てるだけだから特にすることもないし、動けないから部屋の掃除とかするわけにもいかない。今までは精霊と話をしていたけど、話はそう長く続かない。そもそも彼らは人ではないから、話をして盛り上がるということもない。それに今彼らはできるだけ力を溜め込もうとしているためその場から動かずじっとしている。
それにしても、外の景色が見たいなぁ。ずっとこの殺風景な部屋にいるとただでさえいい状況じゃないから気が滅入る。
年季を感じる木の天井を見上げながらぼんやりとアリュの様子を想像する。
きっと騒ぎになっているだろうな。でも、サグアノとゼイドの話からすると、私のいる場所を知ってる人間はアリュにいない。
もう自立できている上の方の弟や妹たちがいるし、生活に困ることはないから、経済的な意味では私は必要ではないだろう。それにおそらく、今は王国の庇護下にいるはずだ。色々あった後だし。
……心配させているのが申し訳ないということもあるけど、今はただみんなに会いたい。私があの時、全力で抵抗すればこんなことにはなっていなかった。それどころか実行犯であるゼイドを捕まえていればダルネミアの裏事情を知ることができたかもしれない。
そういえば以前、カーレル様に君は甘いって言われたことがあったな……
過去の思い出に浸っていると、唐突にノックの音がした。
私の返事を待つことなく扉は開き、サグアノが現れる。
「精霊をこの部屋に残してくるのなら、甲板に出てもいい。ずっとこんなところにいては飽きるだろう」
扉のところにもたれかかってサグアノは言った。
ちょうど外を見たいと思っていたところだったから、ありがたい話だ。
精霊は私が言った通り力を溜め込もうとしているので、別に問題はない。というか、甲板に出てひと暴れしたところで帰れるわけでもないし。
「行きます。こんなところにずっといたら息が詰まりそうですから」
動かせないのは片足だけなので、杖を使えばゆっくりでも歩けるから移動については問題ない。
問題ない……けど、うわぁ、久しぶりに男装した。
「四年近くしていただけあって、板についてるな」
「一言余計です」
甲板に出るのはいいが女だと目立つし、そもそも男ばかりの貿易船で女物は置いてないとのことなので、私は現在男の服を着ている。風通しの良い麻でできた服だ。
掴まって歩くよう言われたので大人しくそれに従う。
すれ違う男たちは私の方を見てくるものの、何も言ってはこない。何か言われているんだろうな。
私がいたのは割と船の奥の方だったらしく、甲板に出るまでしばらくかかった。
「あー、海ですね」
久々に外に出た感想はまさにそれだった。
島影らしきものもない、見渡す限りの海、海、海。
黒みを帯びた青色がゆらゆら揺れていて、見ていたらなんだか少し気持ち悪くなってきた。
でもさっきまでずっと部屋にいて外も見れなかったから気分的にはすっきりしたな。
……それにしても、海のど真ん中だけあってやっぱり水精霊が多いなぁ。
海を漂いながらこっちをジーっと見てくるもの、甲板をふわふわ移動しているものなどだ。上にいる精霊は風精霊だけど。彼らは風だから空気があればそこにいる。
どの精霊も共通なのは、遠巻きに見られているということだ。
たぶんゼイドが牽制してるんだろう。こんなことができるのはここでは彼くらいだし。まあ、近くにきていたとしても契約するつもりないからいいんだけど。
私にはすでに水精霊も風精霊もいる。それに同じ属性の精霊は相性が悪いと言われていて、それで苦労している精霊使いを見たことがある。同じ属性の精霊はできることがほぼ同じで、役割がどうしても被り精霊同士で争ってしまい手に負えないのだとか。同じくらいの力の精霊同士になるのが特に悲惨らしい。
そんな今は関係ないことを考えつつ、私はぼんやり大海原を眺めていた。
先の展開決まっててもなかなか文章に起こせないというのは割とよくあることでしょうか……




