船の上4
粥の最後の一口を食べ終えてると、サグアノは器を盆に乗せて代わりのように横にあった丸い果実を手に取った。
緑色で大きさは赤ちゃんの握り拳ほど、皮が分厚いのか、小刀を手にサグアノが器用に皮を剥いでいく。
「少し硬いが食べておけ。病気になりたくなかったら」
船旅は持っていくことのできる食料が限られているため、日数が経ってくると食が偏り病気になるというのは私も知っている。
あまり航海技術の発達していないころは今よりはるかに目的地に着くまで時間がかかり、船員の半分は病気で死ぬ程だったとか。
そんなことを考えていると、目の前に皮剥きと種抜きをされた果物が現れた。
なんだかもうどうでも良くなってきていたので普通に食べる。
言われた通り水気の少ない果物なのか実は硬めで、今の私には正直食べ辛い。
でも、噛むとじんわりと甘酸っぱい果汁が染み出してきてとても美味しい。少し残ってる皮の苦味がいい感じだ。
「ゼイドさんの力なら私の足、治せますか?」
果物を飲み込んで、ふと思いついたことを聞いてみた。
「いえ、それはできません。壁を張るのとはまた違いますから」
「そうですか」
まあダメ元だけどさ。ちょっと期待したくなっただけだ。できたとしても治してはくれないだろう。
「そっちの医師が治せなかったのか?」
「杖無しでは歩けないだろうと言われています。お優しいんですね、怪我をさせて心配してくださるなんて」
最後のは嫌味だ。あの時、命があればいいからと足を刺された。そう言った側にすれば命があるだけいいだろうとかいう思いなんだろう。人殺しをしたわけではないわけだし。
自分で歩けなくなった、同じ境遇の人でもなければこの感覚はわからないだろう。これまでは普通に歩けたのだから。
それにこれは不慮の事故とかではない。意図的にやられたことだ。大人しく付いて行くと、そう言った従えばよかったのか。
そう指示を出したであろう人物の一人が目の前にいると思うと、無性にイライラしてきた。ぼんやりとはそうは思ってたけど、あまり考えないようにしてきたのに。
建国式典のパーティでの襲撃での私の脅迫紛いの拉致未遂とこの誘拐はあまりにもタイミングが良すぎる。あの襲撃はゲーテの犯行ではあったが、誰が私を欲しがっていたのかはわからなかった。ダルネミア帝国が裏で糸を引いていたのではないかと考えるのは自然だろう。まあ実際そうっぽいし。
それをできるだけ考えないようにしたのは、精霊が激怒する気がしたから。
だから怒ったりするのを無意識のうちに抑えたりしてた。
「違う。僕は反対した。出張か何かでこちらに来るまで一度待つように言った」
「結果こうなったんです。もう変わりませんよ」
そう言うと、サグアノはため息をついて立ち上がった。
サグアノが立ち上がったことで私は見下ろされる感じになり、この人を怒らせたかなと少しだけ不安になった。
命があればいいなら、そこまでは自由だし。
そう思ってちょっと身構えたが、サグアノは何か言いたげな顔をしただけで、結局何も言わずにそのまま部屋を出ていった。
後に残されたゼイドは渋い表情を浮かべながらその後ろ姿を見送り、サグアノが残したままにした粥の乗っていた盆を方付けている。
「……何かございましたらその紐を引いてください。私が部屋まで伺います。お手洗いはあちらに、杖はそこに掛かっているものをお使いください」
そう言って一礼し、ゼイドも部屋を出て行ってしまった。
窓もない殺風景な部屋に一人残され、しばらく私は呆然と扉を見ていた。
私はここで一人きりなのだと思い知らされる。
これからどうなるのかも、どうすればいいのかも見当がつかないし、相談する相手もいない。その上、満足に体も動かせない。
私は精霊がいて、周りに誰かがいてくれないと何もできないんだ。
みんな、心配してくれているのだろうか。それとも、面倒なことをしでかしたと迷惑がられているだろうか。
周囲の人を困らせて、私は何してるんだろ。
今頃地元に戻れているでしょうか
無事(自動車学校を)卒業できていればいいのですが
合宿中に書けるかなーという考えが甘かった
意外とやること多いし、書く時間あっても話が浮かばなかったら意味がないですね(−_−;)




