一方で3
アル視点です
「……そういうあなたこそ、なぜですか?」
振り向くことなくユアリスは聞き返してきた。
「好きになった、それだけだ」
一目惚れに近いもの、はじめはそう思っていた。
でもそれならなぜ、レゲルそっくりなレネッタに惹かれたのか。答えは案外単純だった。
俺は元々、レゲルが好きだったから。それだけだろう。
性格的なものなのかそれとも他の何かか、とにかく俺とレゲルは気が合った。ただ、友人として好きという思いを、それ以上にするのを無理やり抑えていただけだった。
「それなら俺だってそうですよ。俺は集中してるんです。邪魔しないでください」
確かに俺は掴まってるだけだ。だが、すごく腹が立つ言い方だった。
「わかったよ」
微妙な雰囲気のままでも前には進み、ウカナはもう目の前だった。
精霊が近づいているのを感じつつ、滅多に見ることのない上空からの景色を眺めていると、町の上を何かが飛んでいるのが見えた。
鳥だろうか、そう思ったがそれはだんだんこちらに近づいてきている。
「おい、あれ何だ?」
気づいていなさそうなユアリスの肩を叩き、鳥の方を指差した。
間違いなくこっちに向かってきていて、見間違いであると嬉しいが、どんどん大きくなっている。
「あれは……振り落とされないように掴まっててください!」
そうユアリスが言ったのと同時に、いきなり視界が上下逆になる。
一瞬のことだったが、真横を茶色い何かがすごい勢いで飛んでいくのが見えた。
「あれ何だ!?」
「バラバックル種、小型だが、ドラゴンの中で群を抜いて凶暴な種です。俺たちを狙ってる!」
そう叫んだユアリスは手綱を引いてドラゴンを方向転換させ、正面から衝突するのは避けた。
ぎりぎりだった。しかも一匹だけじゃない。確認できただけでも三匹はいた。
「知能はそこまで高くないが三匹もいたら分が悪いので、いったん引きます!」
その瞬間、ドラゴンが一気に加速して風圧で目が開けられなくなった。風の音が煩く、耳を塞ぎたかったがそうもいかない。
ようやく収まってきて振り切ったのかと思ったら、次は精霊から急に離れたためか胸がざわざわしてきて、息が苦しくなる。
堪らずウカナの方を振り向くと、斜め後ろにまだあのドラゴンが見えて、しかもまだ追ってきていた。
「しつこい!」
俺は懐から短剣を出して、先頭にいたドラゴンに向かって投げつけた。
当たらなくても多少怯んでくれればいいと思って投げた短剣はドラゴンに向かって飛んでいき、一番右にいたドラゴンの翼に命中した。
甲高い悲鳴をあげながらそのドラゴンは翼をばたつかせるが、だんだんとその高度は落ちていく。
もう一度投げたいところだが、短剣なんてそう何本も持っていない。しかもあれ、結構高いやつだった。
あと二匹をどうするか悩んでいると、なぜか二匹はびくりと体を震わせ逃げていく。
なぜだろうとユアリスを見ると、彼は手に俺と同じよう短剣を持ってドラゴンに投げ付けようとしているところだった。
「逃げた、のか?」
「そのようですね。仲間がやられて怖気付いたんでしょう。彼らは野生では三、四匹の小さな群れで暮らしますから。凶暴なのは臆病だからです」
そう言ってユアリスはホッと息をつき、進路を元に戻した。
「でもどうして襲ってきたんだ?しかも町中から」
「足止めでしょう。どこかに見張りがいて、追っ手がきたら襲わせるように仕向けた。知能が低いといってもドラゴンとしてで、犬よりは賢いので飼い慣らせば人間の指示も聞きます」
「そこまでして何でまたレネッタを?」
確かに国一番どころか世界で一番凄い精霊使いだろうとは思ってるけど、こんなことまでして手に入れたいのだろうか。恐れて暗殺するならまだ理解できなくもないが。
そうしているうちに、段々高度が下がってきて、豆粒ほどだった人の姿がはっきり見えるようになってきた。
「海に降りるんじゃないのか?」
「さっきの奇襲でコクがかなり疲れたみたいだ。幸いそこに騎士団があるからそこに降りて馬を借りる。外壁がたぶん壊れるが、仕方ない」
町から少し離れた場所にある騎士団らしき建物を指差してユアリスを言った。
「いいのかそれ」
「……あまりよくない」
そう言いながらも、だんだん騎士団との距離は近付き、ついに叩きつけられたような衝撃と共に俺たちは騎士団の中庭に降り立った。
友人がユアリスを推しています
どうなるんでしょうね(笑)
試験が無事終わっていることを願いつつ予約投稿しました




