船の上2
レネッタ視点です
器から顔を背けて再び寝転がろうとすると、ゼイドに止められた。
主人の様子を呆れ返って今まで見てたくせに、こういうのは手伝うの?
すると、ゼイドは困りきった口調で何かをサグアノに頼んだ。
サグアノは拗ねたような表情を見せる。
食べてはほしいが、主人相手にあまり強く言うことができず迷ってたとか?
よかった、この人は普通の人だった。
「こういうの、ノリが悪いって言うんだっけ?まったく、せっかく楽しんんでるのに」
……楽しんでるのはあんただけだ。こっちは面白くもなんともない。
「ゼイドさんならいいですよ、それやられても」
サグアノに食べさせられるくらいならゼイドみたいにフツーの介護感覚で食べさせてくれそうな人のほうがいい。
事務的に淡々とこなしてくれるんじゃないだろうか。
もちろん自分で食べるのが一番いいけどさ。
「僕は自分の部下に負けたのか?」
まあ、人間的にはボロ負けだと思います。ゼイドのことを知ってるわけじゃないけど、第一印象はサグアノよりよっぽどいい。
まあ、顔とかは悪くないんだよなこの人。
少し彫りがきつくて濃い顔だけど、野性味があってワイルドな感じが好きって人には堪らないだろう。ただ私の好みじゃないってだけで。
とりあえず、目の前に差し出されたままになっている粥を食べた。
「これで、満足ですか?」
ちょうどいい温度ではなく冷め過ぎていたが、鼻を抜ける香りと程良い辛さがクセになりそうな味だった。
サグアノのぽかんとした顔を見れたから少し気分もいいし。
状況的にはこっちが明らかに不利だが、やられっぱなしは腹立つ。
照れながら食べるのでも見たかったのだろうか。何が嬉しいんだそんなの見て。
簡単に思い通りになると思うな。
「面白いな君は。今がどういう状況かわかっているのか?」
「どう足掻いても逃げられなさそうなので、自分の好きにしてるんです」
尋問とか拷問とかはされるとしてもダルネミアに着いてからだろう。精霊たちがろくに動けないから私に今できることは機会を待つこととくらいだ。
とりあえず、サグアノは挑発に乗らないタイプだということはわかった。つまらん。
「妙に冷静だな。誰か助けが来るとでも?」
「本番直前になると緊張するタイプなので」
何かのイベント事も、前日まではヘラヘラしている。強がりと言われたこともあるが、見方次第だろう。
それを聞いたサグアノは小さく笑った。
「ぜひ僕の手元に置きたい。なんならこちらの戸籍を作って身分も保証するぞ。父親がこちらの人間ということにしておけばさらに簡単に作れる」
「……は?」
手元に置くって、部下になれとかそういう意味か。
「まあ食べながら考えろ。冷めるぞ」
そう言ってサグアノは再び粥を掬い、口元に近付けてきた。
「結構です。そもそも、あなたがどういう人物なのか知りません」
こういうふざけたことをする性根が腐ってそうな人間であること以外は。
「これを全て食べたら君の質問に何でも答えよう 。さあ、どうする?」
悪戯っぽい笑み、前言撤回、腐ってそうじゃない、腐ってる。
ダルネミアに着けばわかるかもしれないが、まだしばらくは海の上だ。それに情報は欲しい。
思いっきりサグアノを睨みつけながら私は粥を食べた。
笑ってるが気にしない。粥に罪はないこととゼイドが非常に申し訳なさそうにしてるから腹が立っても手は出さない。
「僕が誰か知りたいんだっけ」
半分ほど食べたところで、ずっと黙って笑っていたサグアノが口を開いた。
「僕はダルネミアの皇帝の息子だ。まあ妾の子で全員で六人いる息子の下から二番目だがな」
え?
とんでもない告白に思わず口の中の粥を吹き出しそうになった。
試験期間です
今はなによりも単位が欲しい




