一方で
アル視点です
俺は急いで自分の精霊にレネッタのところに行くよう指示した。接触できなくても追跡するように言って、俺たちはクローゼットから騎士を引きずり出す。
「大丈夫か?しっかりしろ!」
ぐったりとしている二人の頬を叩きながら呼びかける。息もあるし、気絶しているだけだろう。
そうしているうちにリフィアル嬢のメイドが呼んだのか、医師と他の騎士たちがやってきた。
「何があったんですか?」
倒れている騎士の縄を切り、担架を用意しながら騎士の一人が言った。
「物音がして、開けてみたら二人が入っていたんです。確かこの二人はレネッタの……」
「ああ、この時間はその部屋の警備のはず。何人か向かわせたが、報告がまだ来ない」
リフィアル嬢いわく、群がっていた精霊たちもどこかへ行ってしまったらしい。それはすなわち、レネッタがもう部屋にいないということだ。
精霊に追跡させているが、そのうち距離に限界がくる。
「こっちは何があった!?」
振り向いて扉の方を見ると、そこには騒ぎを聞きつけ走ってきたのか、やや息の荒いシャヴィム殿下と、固い表情のカーレル様が立っていた。
二人は担架に乗せられて運ばれていく騎士を一瞥すると、俺たちの方へ近づいて来た。
「あなたが彼らを見つけたんですか?」
「はい。あの、今俺の精霊にレネッタを追わせてて、でもそんなに遠くまでもたないから……」
精霊がどの方にいるかは感覚でなんとなくわかる。徐々に離れていく感じがしていて、落ち着かない。
そこまで言うと、カーレル様は僅かに目を見開き、てきぱきと集まっている騎士たちに指示を出し始める。
「彼の精霊が彼女を追っている。そことそこの騎士、彼についていって護衛を。他は王宮に不審人物がいたかどうかの調査と、後を追わせる応援部隊の準備をしなさい。すぐに!」
そこからの動きは早かった。
いくつかの班に分かれた騎士たちはそれぞれの仕事に向かっていき、俺は二人の騎士に挟まれるようにしながら自分の精霊の後を追うために王宮を出た。
リフィアル嬢のことは気になるが、それどころではないことはわかる。
気を紛らわせるために、さっきのことを思い出して頭を整理してみる。
「ん?こっちも……?」
「どうかしましたか?」
記憶をたぐった中である違和感を感じて口に出したのを、一緒に来た騎士に聞き返された。
「いや、さっきシャヴィム殿下がこっちも何かあったのか、っておっしゃったから、これ以外に何かあったということですよね」
「ええ、王宮に魔物が入り込んで、発見したメイド二人が怪我を……ですが、たいした魔物ではなくすぐ倒しました。ただ、先日のこともあって騒ぎが大きくなりましたね」
ということは、そっちが囮だったのか。
誰も見ていないのはおかしいとは思った。でもそこまでしてレネッタをどうしたいんだ?
王宮の外にはすでに馬が待機していて、事情を聞かれることなくそれに乗せられた。
「大丈夫か?」
ソワソワしているのが気になったのか、騎士が心配そうに尋ねてきた。
「たぶん……」
さっきから全然気持ちが落ち着かない。まさか、レネッタの方もこちらと同じ速度で移動しているのか?だとしたら追いつけない。
馬に乗るのは慣れているが、王都のような人混みの中を突っ走るのは初めてだ。幸い歩いている人々や馬車は、ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか道を開けてくれる。
王都の外れまでくると、そこまで人通りは多くなくなったが、やはり目立っていた。
森の中の馬車や隊商が通る舗装された道路を走っている時だった。
突然目の前に山賊のような格好をした男たちが躍り出てきて道を塞いだ。
「そこをどいてくれ!」
「無理だな。あんたらを足止めしろって頼まれたんでね」
山賊の頭らしき男が大ぶりな刀を抜いて言った。
全員が顔を布で隠していて、表情は一切読み取れないがなんとなく笑ってる気がした。
「できるだけ長く足止めしてくれってな。長ければ長いほどいいってよ。前金もたんまり貰ってるし、怪我したくなかったらそこでじっとしてろ」
「誰に頼まれた?」
「知らない奴だ。ヤバそうなら逃げてもいいって話だし、条件もいいから前金貰うだけでトンズラすんのも勿体無い。何ならお喋りでもするか?こっちは大歓迎だ」
男は大仰な仕草で両手を上げる。そうこうしているうちに、さらに精霊が遠くに行っているのを感じた。
「そんな暇はない。金なら払ってやるからそこを通してくれ」
「そんなの信じられるか。確かにあいつら何も言ってなかったが、金払いについては信用できそうだ。だがあんたら見たとこ王都の騎士だろ。真ん中の兄ちゃんはわかんねーけど。どーせ後で払うとか言って番所に突き出すんだろ?」
男の目はぎらつき、こちらのことを一切信用していないのは見え見えだ。
しかも俺のところには精霊がいない。騎士も同じだった。
向こうにこちらを殺す気がないのが救いだ。足止めしろと言われてるだけだから。
だからといってこのままでは彼らの思うつぼだ。
どうするべきか、とりあえず男たちを睨んだ。
男たちは余裕があるのか、全く気にしていない様子でそれを受け流す。
どれくらいそうしていたのか、突然頭上でバキバキと木の枝の折れる音がして、大量の葉と枝が落ちてきた。
見上げると、巨大な黒い影が木の枝を巻き込みながらこちらの方に降りてきていた。
山賊らしき男たちは慌てふためいている。当然だ。俺も状況を把握できていないんだから。
絶賛スランプ中です
ストックはありますが(苦笑)




