言葉の意味
殿下視点です
カーレルにアルとユアリスの二人をレネッタの代理、第二補佐官にしようと思うと言われ、後で行くからと手渡された二人に関する資料を片手に待ち合わせ場所に指定されていたレネッタの部屋へ行くと、既に二人の先客がいた。
この二人がアルとユアリスだと直感したが、なぜか二人とも互いに敵対しているように見える。
カーレルが怒っているのではと、不安そうなレネッタに、完全にこの状況を楽しむ彼の様子を思い浮かべながら安心するよう言って、ふと二人を見てみると、まだ小声で何かを言い合っていた。
二人の様子から、彼らがレネッタに思いを抱いていることはなんとなく察し、ついでにカーレルの目的もなんとなくわかった。
思わず笑いかけたが堪えて、書類に目を戻す。
その後しばらくしてカーレルが部屋にやってきた。
彼がここに来た目的を明かすと、全員が驚きを隠せずにいた。彼らに何も教えていなかったらしい。
そして遠回しに、かつ面白がりながら結婚を勧めてみたりするカーレルを呆れた目で見て、話の当事者のレネッタを見る。
意味がわからない、彼女の顔にはそう書いてあった。
大方、この三人がこのままだと全員が婚期を逃す。決めるなら早く決めろと、カーレルは言いたいのだろう。
長いこと沈黙が続く。
カーレルの言葉の意味をレネッタに教えた方がいいのではと、僕が口を開きかけた時だった。
「あのっ……!」
意を決したようにユアリスが口火を切る。
「あなたが俺の……いえ、全員を騙してたとしても、俺の気持ちは変わりません。だから、食事のこと、考えておいてください!」
顔を先ほどまでよりさらに赤くさせながら、ユアリスは言った。
食事……?ああ、これより前にどこかで彼女を食事に誘ったのか。
ん?それは男の方にだろうか。それとも彼は知っていたのか?
レネッタの反応を伺うと、わかってはいたが、どうすればよいのかわからない、という表情を真っ赤になった顔に浮かべていた。
こういう様子を見ていると、よくこれで男としてここで過ごしていけたなと不思議に思う。
こんなにも表情がコロコロと変わり、顔に感情がほとんど現れている。
まあ緊張が解けた反動か、きっとこれが素の彼女なのだろう。そう思うことにした。
ユアリスはとりあえず思いを伝えたし、カーレルは楽しげだ。しかし……
「誘うのはいいが、まともに歩けないのにどうやって食事に行くんだ?」
「あっ……」
これは一応言っておいたほうがいいだろう。
彼女は襲撃以降、まだ一度も外に出ていない。移動は全て車椅子で、リハビリはまだ始めたばかりだ。
彼女が外食に行くとなればそれなり……いや、結構な騒ぎになる。
緊張してかそこまで考えられなかったらしい。ユアリスは固まった。
こうなってはしばらく動けないだろう。このうちにもう一人の候補?のアルはどうだろう。
彼はもまたユアリスとは違う意味で呆然と固まり、ユアリスの方を見ていた。
先を越され、しかもあれほど言い合いをしていたのに互いのレネッタへの思いに気付いていなかったようだ。
それともそういう意味での敵対心だと思わなかっただけなのか。まあ、今となってはどうでもいいことだろうが。
三人は見ていないが、カーレルはとても楽しそうに笑っている。




