殿下とお食事5
私はしばらくアルと近状を話していたので、殿下の相手をしていなかったが、殿下は殿下で酒を飲んでいたので安心した。飲みたいだけらしいからこのまま放っておいても大丈夫だろう。
「おい、レゲル」
不意に殿下に声をかけられた。
「なんです?」
「……お前、好きな人いるか?」
一瞬思考が停止した。いきなりなに言ってるんだ。
「いませんよ」
「……そうか」
殿下はまたちびちびと酒を飲み始めた。なんだったんだろう。
「……好きな人がいるんですか?」
あっ……敬語に戻った。まあいいや。癖だと思ってもらおう。
殿下は特に気にしていないようだし。
「え?誰?俺の知ってる女の子?」
横からアルが口を挟んできたが、殿下は黙ってしまった。
「いきなり何です?」
「……フェターシャ」
殿下はぼそっと呟いた。どこかで聞いたことがある名前だ。
「え?フーレントース家のフェターシャ嬢?あの大貴族の」
あ、フーレントース家と言えば超名門貴族だ。王妃を何人も輩出していて、役人も多い。鉱山等も持っている。
確かフェターシャ嬢はフーレントース家のご令嬢、絶世の美女だったっけ。それは有名なはずだ。
殿下は黙ってうなずいた。殿下はその方に惚れてしまったようだ。
「うわー、とんでもないお方に惚れたんだな」
「………」
殿下はそう言ったきりまた黙ってしまった。そんなこと私に言ってどうする気だ。私は何もできません。というか殿下が直々に告白すれば大抵の女性は落ちますよ。
「兄上も彼女に気がある」
あー、王太子殿下……そりゃあ好みにもよるかもしらないけど立場的に殿下は不利だな。
家としても王太子殿下に嫁がせたいだろうし、何より貴族の女の子は相手の地位とかも重視するから今の殿下には不利だ。
……まさか殿下、女のために王位を狙ってるわけじゃないですよね。
私は一瞬とても不安になったが、まあそんな理由だけではないはずだ。気にしないでおこう。
「兄弟そろってすごいお方に……まあクラテだっけ?君の顔は整ってるけどさ、ああいう人はどうせ王太子殿下とか、そういう地位のお方のとこに嫁ぐだろ」
アル……見事に地雷を踏んだな。まさに殿下はそれをさっき言っていたんだよ。
アルにまで言われてしまい、ますます殿下は落ち込んだ。
たぶん相当酔ってるんだろうな。どうやら殿下は酔うと感情表現が露骨になるようで、さっきからいろいろとわかりやすい。
ちなみに私はお酒には強い。イッキ飲みとかをしなければそう酔ったりもしないし、少しずつちびちび飲めば一晩くらい明かせる。
「まあ高嶺の華って言葉もあるし、顔もいいんだからきっと他のいい出会いが見付かるって」
アルはばしばし殿下の肩を叩いて殿下を慰めている。
というか、殿下は酔ったときの記憶って忘れるのかな。忘れてほしい。
「彼女以外考えられない」
ああ、いろいろと末期だ。大丈夫か?
その後も、殿下が嘆いてそれを馴れ馴れしくアルが慰める……という流れが続いて、真夜中……というか殿下が酔い潰れたところでそれは終わった。
お会計はお店に入る前に殿下が持ってくれるって言ってたから、ツケを使った。後で殿下に領収書見せて請求すればいい。殿下の方が飲んでるし。
私は酔い潰れた殿下をアルと協力して運んだ。
とりあえず殿下を目に入った馬車に乗せて、そこでアルと別れた。殿下を王宮に連れてかないといけないから。
もう帰ろうとしていた馬車だったが、多目のお金を渡してなんとか運んでもらえることになった。
王宮のちょっと手前で馬車を降りて殿下をなんとか王宮に送り届ける。
殿下が帰ってくるまで王宮の門の前で待たされた部下が可哀想だったけど、私も疲れていたのでお礼もそこそこに自分の部屋に戻った。
いくら酔いにくいとはいえ疲れた。




