彼
久々のレネッタ目線です
「あの、どうしてイグルドさんがオルト達を?」
ひとしきり話したあと、全員が部屋を出ていくのを見送り、私はイグルドに訊ねた。
オルトの話によると、私が倒れた日の翌日、つまり昨日の朝にはみんなここに到着していたらしく、あの襲撃のあった夜のうちにこっちに向かってきていたことになる。
「うーん、やっぱりそれは気になるか」
ええ、まあ。
あの日確か私はカイに弟と妹のことを言われて、家まで精霊を送った。
精霊がオルトたちと一緒に戻ってきたから、最初は無事だったことが嬉しくて何も思わなかったけど、どうしてイグルドとオルトが一緒に?
「……あの日は昼間のうちからハセ区で不穏な動きがあった。本当はあんまり言いたくなかったが、実は元々あなたのところは監視がついてた」
「は?何ですかそれ!?」
思わず身体を起こしかけました。
いきなり動いたせいで怪我したところが傷んで、すぐにもう一度寝転がるはめになりましたが。
「カーレルもこの事は知ってる。というか、それだけ偉くなって、遠くにいる家族に今まで何も起こっていないことえを疑問に思わなかったのか?」
「そういえば……」
宰相様の補佐官といっても、大したことしてる訳でもなく、オルト達の身に何かが起こることもなかったから、気にしなくなってたのかもしれない。
彼らがみんなのことを見ていたから、何もなかったのか。
自分の甘さを突き付けられたようで、私はしばらく何も考えられなくなった。
「ま、終わりよければ全てよしとも言う。兄弟は無事、処分は減給と反省文だ」
「反省文って……始末書ですけど」
「似たようなもんだろ。反省書いて提出、要は反省文」
いや、そうかもしれないけど問題はそこじゃない。
「話を逸らさないでください。監視って、どうして……」
「聞かなくても理由はだいたい想像ついただろ?こうなった以上、一応言っておくべきだと思ったから言っとくが。詳しいことはいずれわかるさ。とりあえず今はその怪我の治療のことだけ考えてればいい」
「はあ……」
なんか、はぐらかされた。
確かに、私に何かさせたかったら家族を押さえるのが一番手っ取り早いだろう。ハセ区っていう田舎のさらに田舎みたいなとこだし、何かあってもすぐにはわからない。
「しばらく弟さんたちはこっちに滞在するし、その間のことは他に任せとけ」
「……わかりました」
そう言うと、イグルドは僅かに目を見開く。
「何か?」
「いや、素直な返事だったから」
「どう言っても変わらないでしょう」
これ以上聞いても無駄だろうということはわかるし、何よりもう疲れた。
ずっと寝てて久しぶりに動いたからだろうけど。
足は見るのが怖いし、他の怪我も痛いまま。
「そろそろ行く。何かあったらすぐ誰かに言えよ」
子供じゃないし、そんなこと言われなくてもわかる。と言いたかったが、疲れるだけだから止めておいた。
イグルドはそのまま部屋を出ていき、部屋には私だけになる。
……彼はいったい何なのだろう。
あの時、騎士団の闘技会のときも断片的なというか、必要ではあるが、微妙な情報をくれた。
本来のゲーテと、もうひとつのゲーテ、別れた組織の違い。
彼が手助けらしきことをしてくれたし、襲撃の内容的にも今回のこともまたもうひとつのゲーテの企てだ。
ゲーテにとって、私は欲しい駒の一つなんだろうけど、いったい誰が何をしたくてこんなことになっているのだろうか。
ああ、頭が痛い。




