殿下目線
タイトル通り、シャヴィム殿下目線です
誰かがいきなり襲いかかってきたと思ったらレゲルに突き飛ばされた、くらいしかその時 のことは覚えていない。 次の瞬間には背中に強い衝撃が走ってそこからの意識は無い。
気付いたらレゲルが私に背を向けて私に襲いかかってきた少年と向かい合って話をしていた。
幸い少年はレゲルと話をするのに気が向いているらしく 、私の目が覚めたことに気付かなかったようだ。
少年にばれないうちに目を閉じて今の状況を整理した。まず、襲いかかってきた少年から私を庇い、レゲルが腕に怪我を負った。
レゲルの腕からはまだ血が出ていた。 私が弟であったら今すぐにでも治療してやりたいくらいの大怪我だ。 私は自分の無力さを呪った。
まだ精霊と契約できない私を。 精霊がいないから自衛のために武術を必死で学んだが、この状況では役立たない。下手をすれば今大怪我をしているレゲルを巻き込んでしまう上、武器を持たない私は少年の持つ長剣には敵わない。
「……霊に命じてしまう前に」
という、怒ったようなレゲルの声で目を覚ましたのだが、いったい、何を話しているんだろう。
雰囲気もどこかピリピリしている。
薄目を開けてできるだけの回りの状況を把握する。
レゲルの右側に一本の短剣が転がっていた。
腕を負傷したときに落としたのだろう。少し血が付いている。
不意に、目の前に半透明の人が現れた。そして、頭の中に直接響くような声がした。
『あなたの名前を教えてください』
……精霊、光精霊だろうか。ちらちらとレゲルの方を心配そうに見ている。本当はレゲルの精霊になりたいが、彼が心配なあまり私と契約してでも助けようとしているのだろうか。
私は自分の名前を伝えた。
すると精霊は先ほどまであれほど心配そうにしていた レゲルの方を見なくなった。
代わりに、『私はどのようにすればよろしいですか?』という声が聞こえた。
もう精霊は私の方しか見ていない。どういうことだろうか。だが、今はそれを気にしている場合ではない。
レゲルの方へ目をやると、彼の太ももに深々と少年の剣に突き刺さっているのが見えた。
思わず目を見開き、しばらく呆然としていた。
話から察するに、少年には彼を殺す気は無いようだが、連れていくためなら何でもする、という感じだった。
このままなにもしないでいては、意味がない。精霊が私のもとに来たのも、このためなのだから。
私はレゲルの横に落ちている短剣の位置を把握し、精霊に命令した。
レゲルの頭上あたりで、拳ほどの大きさの光の玉が急に膨れた瞬間、辺りが眩しい光に照らされる。
こうなるとはわかっていた私でも目が眩んだほどの光だ。
少年は当然反応できず、しかも間近で見たはずなので思わずといった様子で目に手を当てて眩しそうにしている。
後は彼から剣を奪って気絶させるだけ、そう思った時だ。
パニックになったらしい少年が無茶苦茶に振った剣が倒れているレゲルの背中を掠め、じわりと血が滲む。
……って、ぼんやり見ている場合じゃない!
レゲルの短剣を拾った私はその少年を押し倒して気絶させ、その手から剣を奪い取った。
それが合図だったかのように、会場は再び戦いの場へと変わった。
あの妙なピリピリした雰囲気は消えている。
「殿下!シャヴィム殿下っ!」
慌てた様子で近寄ってきたのは近衛兵長のセホスだった。
「私のことはいい。それよりもレゲルを助けろ」
苦しげな表情を浮かべたまま意識を失っている彼の足と腕からはまだ血が出ていた。
私に言われレゲルの状態を見たセホスは顔を青くし、神官よ呼ぶよう叫ぶ。
「状況はどうなっている?」
この状況で神官がはたしてすぐに来るのか、敵が残っていて邪魔されてはかなわない。
「えーと、魔物は全て倒し、襲撃者の一部の捕縛に成功ました。後は残党を残すだけかと……」
……ひとまずは、どうにかなったのか。
「とにかくレゲルを安全なところへ運び治療しろ。他の負傷者も同様だ」
これだけの惨事だ。死人が出ることも覚悟しておくべきだろう。
その死人の中に、レゲルが含まれないことを願った。




