相談と告白
視点が主人公に戻ります
「あのフェターシャ嬢との話ってどういうこと?会場に来たらその話ばかりだし、話しかけようとしてもあまり隙がないし……」
突然現れたティグルスは私の腕を掴んで私を会場から少し離れた所に連れてきた。
「どういうことと聞かれても……好意を持たれてたんだなーって、それ以外は……」
念のために精霊に会話が漏れないようにしてもらいつつ、できるだけ小さい声で言う。
「っていうか、気付いたりしなかったの?」
「気付くわけありませんよ。そんなに頻繁に会うこともありませんし」
「女なのに?」
私を指差して、ティグルスは驚いたように言った。
「それならなおさら気付きませんよ。惚れるなんてあり得ませんから」
「乙女心とかないの?」
なんかさらっと酷いこと言われた。別にいいけど。事実だから。
「いいんです。恋愛する気はありませんから」
「でも女としての婚期が逃げてくよ。さすがに男同士で結婚はできないし」
「大丈夫ですって、結婚する気もありませんから。最悪クビになったら他の仕事探します」
「クビって、レゲルがクビになるとしたら……」
「そうですね、バレたときか、不祥事を起こしたときか、どちらにせよ、私の処分はいろいろ面倒だと思いますけどね。そうだ、その時貰ってくれますか?私が男装してティグルス様が女装すれば釣り合いがとれますよ」
ん?この案意外といいかも。ティグルス様は私なんかよりずっと可愛いし。
でもあれか、身分的にダメか。
「冗談を言っている場合か!あのお嬢様以外にもそういう風に思ってる女性がいるはず。何度も繰り返す気?」
あっ、一瞬口調が荒れた。
ティグルス様に心配されてるのはわかるけど、そんなに心配しなくても。
「ですから大丈夫です。そのうちやみますよ。さすがにいい歳になったら貰おうっていうお嬢さんはいなくなると思いますよ」
いくら多少の地位があっても三十歳とか過ぎたら誰も貰ってくれないと思います。
「じゃあ貰う、だからもうやめなよこんなことは」
「……は?」
も、貰うって……いや、冗談ですよ。
「お父様なら話せばきっとわかってくれます。双子の妹ですとでも言えば誤魔化せるはず」
「身元とか怪しくなりません?それにさっきのは冗談だと……」
私なんかのためにそこまでする必要はありませんし、ティグルス様には身分も容姿も相応しい方が現れます。それに、歳もちょっと無理がある。
ティグルス様はたしかまだ十一歳、許嫁ならまだしも、この歳ではねぇ。
「それに、結婚とかそういうのをしなくてもそのうち辞めますよ。彼……オスルのこともありますから」
今ではないが、いつか彼はその事を言うだろう。せめてそうされる前に、今の仕事が他の人に渡せるくらいになったら、辞めるつもりだ。
「私じゃダメなの?」
なぜか上目遣い。この角度、ちょうどルナとかルラくらいの目線。弱いんですよね、こういうの……強く出にくい。
「いえ、別にダメとかそういうのじゃなくて……」
貰い手がいるだけ、いいと思っておきます。それだけで十分です。はい……
何て言うべきか迷っていると、不意に精霊が騒ぎだしたので後ろを振り向きました。
ユアリスさんがその辺にいるのは知ってました。でも会話遮断してるしいいかなーと思って放っておいたんですよね。追い返して妙な勘違いとか生まれるのも嫌だったし。
見てみると、ユアリスさんの足元がガッチガチに固まってます。たぶん氷精霊が足止めのつもりでやったんでしょうね。
「すみません、すぐ溶かします」
火精霊に命じて氷を溶かして、とりあえずユアリスさんの足は自由に動くようになりました。
聞かれていたのはあり得ないので、いったい何があったんでしょうか。念のため、音は遮断しておきます。
「なにかあったんですか?」
センター試験ですね……(遠い目)




