殿下とお食事3
私達は食事を終えて、レストランを出た。
特に何か話したわけでもなく、腹を探るわけでもなかった。
「今日はクレイ殿はいらっしゃらないのですか?」
周りを見ても、いるのは殿下の迎えの部下ばかりで、従騎士のクレイの姿がなかった。
「クレイは今日はいない。騎士団の方からの呼び出しがあったらしいからそっちに行っている」
「そうですか」
私は殿下が帰ろうとするのを待った。さすがに殿下を置いて先に帰るのは非常識だろう。
待っていると殿下は何かを迎えの部下に言った。
そのまま早く帰ってください。私も帰りたいので。
しばらく話した後、殿下は私の方を見た。
「この後時間はあるか?」
ちょっと待ってください、私は帰りたいんですけど。断れるわけないじゃないか。
「何かあるんですか?」
「いや、少し飲み足りないと思ってな」
確かにそんなに飲んでませんけど。一人で行けばいいじゃないですか。部下もたくさんいますし。
すると、精霊が私に言った。どうやら殿下の部下の精霊からの伝言のようだ。
『殿下は酒豪なんだそうです』
『立場上止めるのは無理で、かといって殿下は部下とは飲みたがらない』
『一人で行かせるのはまずいから行ってほしい……とあの者の精霊が言っております』
そう言って精霊が指したのは一人の中年男だ。
「……どこに飲みに行くおつもりですか?」
いかがわしいお店は勘弁してほしい。この人がどんな店で飲むかは知らないけど。
「飲めればどこでもいい」
結構適当。というかどこの酒飲みだ。飲めればいいってどうなの?
部下達は何かを期待した目で私を見ている。押し付ける気満々だな。
「……確かバーが通りにあるはずです」
部下の一人が余計なことを言った。
「騎士や精霊使の間で人気の店ですよ」
まあそこでいいんじゃないですか。とっとと決めよう。どうせ行かなきゃいけなさそうだし。
「知り合いに会いそうな所は嫌だ」
どんだけわがままなんだこの人。よく見たら顔が若干赤い気がする。酔ってるのか?
私は中年男の精霊に尋ねた。
『酔っ払ってるそうです。お酒にはそう強くないけどたくさん飲める、と』
とんでもなく面倒な酔っ払いだ。
「……私の知ってる店ならあまり殿下の知り合いの方はいないかと」
「どこだ?」
本当はあまり教えたくない店なのだが、仕方ない。いい店なのだがあまり繁盛していないし、殿下に紹介すればお金入るかな。
あの店は気に入っているから潰れてほしくないし。
「ここからそう遠くはないのですが、このような格好で行くべきではない店です」
潰れてほしくはないが、繁盛してほしくはない。あの雰囲気が好きなのだ。仮にも王子様が利用した店ともなれば繁盛してしまう。利用者の複雑な心境だ。
それにこんな格好ではこれからあの店に行きづらくなる。
「構わん、上の派手なのを脱いでマントでも羽織ればいい」
確かに殿下の服も私の服も、上着を脱げばだいぶ変わる。少し古めかしいマントでも羽織れば浮かない。
殿下は部下に適当なマントを買ってくるように命じた。私の分も買ってくれるようだ。
私は地味で質素なものにしてくるようにとだけ言って、先に店の近くまで殿下を案内することにした。
人付き合いも大変だな。




