縁談と夜会と1
「えっ、私に縁談ですか?」
「今夜の夜会でぜひ君に会いたいって言われてね。普通の縁談なら断れるんだけど、夜会で会うっていうのでは断ったところでどのみち会ってしまうわけだから」
今、世間は建国の記念祭で盛り上がっている。その式典に伴い今夜開催されるのが王宮の夜会だ。
それ関連の書類に目を通していたら突然カーレル様が私に縁談がある言われた。
「それは……いったいどこのお嬢さんですか?」
「セフォール家の当主の一人娘が君を見て一目惚れしたらしい。一応伝えておいた方が君も対処しやすいだろうと思って。君が結婚とかそういうのに興味ないのは知ってるし」
私への縁談はよく舞い込んでくる。私の地位とかが目的だろうが、少ない数ではない。
直接私に提案してくる場合と、カーレル様経由で伝わる場合がほとんどで、どちらも断ってる。結婚とかできないから当たり前だ。
「少し早めに会場に行って会うことになっていますから、レゲル君は先に行ってください。私は後から向かいます」
まあ、断ればいいことだし、別にいいですけど。
それに、カーレル様の机の上には書類が乗ってる。これから来る分も合わせると終わるのはけっこうギリギリっぽい。
私も少し早めに行くとなると、もう少しペースをあげた方がよさそうだ。
そうしてまだ明るいうちに夜会の会場になっている王宮の中庭に到着した。
先に来ていた他の夜会出席者の姿の中にそれらしい女性は見当たらない。
会話を適当に受け答えしながら周囲の様子を精霊に見ておいてもらい、『縁談』の相手が来るのを待った。
「こんばんはレゲル様。セフォール・エゴルです」
にこにこと笑いながら近付いてきた小太りの男、セフォールということは彼が父親か。
「こんばんは」
一応こちらも笑いながら挨拶を返した。
「娘はあちらにおります」
彼が示した先には一人の可愛らしい女性が立ってこちらをじっと見ていた。
周りに集まっていた人がざわめいているが、気にしないようにする。どうせ断るから、今何か言ったところで変わることは何一つない。
「これが娘のアイルです。ほら、ご挨拶しなさい」
そう紹介されたのは、癖のない長い赤毛に深い青色の瞳の可愛らしい少女だった。
「アイル・セフォールと申します」
そう言ってアイルは真っ赤になってペコリと頭を下げる。
「こんばんはアイルさん。レゲル・ゲナルダです」
私の名前は知っているはずだけど、とりあえず名乗っておく。
「お忙しいところをわざわざ来ていただきありがとうございます。ささ、あちらに椅子もあることですし、移動なさっては?」
そんなに娘と私を引っ付けたいのか、エゴルはしきりに少し離れたところに見える長椅子を指して言った。
「気持ちだけ受け取らせていただきます。あまりゆっくりはしていられませんので」
一緒に座ったりしたら、いくら気にしないとはいえ何を言われるかわかったもんじゃない。
人前でこんなことをするということは本気で私とアイルをくっ付けに来たのだろう。この子の今後の立場も考慮して断らなければならない。
面倒くさいけど、これくらい上手くやらなければ王宮でこれからやっていけないし。
「あの……私では……だめなのですか?」
私の先ほどの言葉を断りの言葉と取ったらしい。まあ実際断るつもりでいるけど。
不安げな表情でじっと私の目を見てアイルは言う。
「そういうことではありません。ただ貴女には……」
もっと似合う人がいると、そう言いかけた時だった。
アイルをできるだけ傷付けないよう、慎重に言葉を選んで話そうとしたら、一人の少女がアイルの横に立ち、アイル以上に真っ赤な顔をして叫んだ。
「好きです!レゲル様のことが!」
美しく整った顔を恥ずかしそうに歪めながらそう言ったのはあのフーレントース家のご令嬢、クラヴィッテ殿下の恋人のはずのフェターシャ嬢だった。
驚きのあまり目を見開いてフェターシャ嬢を見る。
アイルも戸惑いを隠せない様子でそちらを見た。
「フェターシャ様、それはどういうことですか?」
思わず尋ねると、フェターシャ嬢はその緑色の瞳を私に真っ直ぐ向けて言った。
「あの時、離宮のパーティーでレゲル様に魔物から助けていただいた時からレゲル様のことが好きなのです。それを……その事を伝えたくて……」
うつむくフェターシャ嬢になんと声をかけるべきなのか全くわからない。それにアイルとは比べ物にならないくらいの視線が刺さってる!
ていうか、確かフェターシャ嬢はクラヴィッテ殿下と付き合っているはずだよね?私が助けた時からってことはまさか、殿下との交際を始めた時点でそうだったってことですか!?
どうするべきか悩み、ちらとアイルを見ます。
その目には涙が溜まっていました。
「……勝ち目がないじゃない」
誰にともなく、アイルはぼそりと呟く。
確かに家柄も容姿も、アイルよりフェターシャ嬢が勝っている。思わずそう呟いてしまうのにも納得がいく。
でも、私は誰かと結婚するつもりはない。
私は断るために口を開く。
「申し訳ないのですが、私は誰とも結婚しようと思っておりません。ご好意はとても嬉しいのですが、どうかその事をわかってください」
……これでいい。そう思って言ったのに、フェターシャ嬢は諦めきれない様子で続けました。
「でしたら、お友達からでも構いません。殿下には今日申し上げます」
そっ、そうだ、殿下のことどうしよう!そもそも私とアルがお二人の間に入って今に至るんだよね。
何を言われようとも、お付き合いとかそういうものは断固としてお断りするつもりですが、それよりもフラれた殿下の方が問題!
あんな面倒くさい人の彼女を盗るって、怖すぎる!
気付けば私たちの周りには人だかりができていて、その中に見えました、クラヴィッテ殿下がっ!この状況はどう切り抜ければいいんでしょうか。
「お気持ちは嬉しいのですが、私はフェターシャ様とは身分が違いすぎます。それにフェターシャ様には私以上にふさわしい方がいらっしゃるはずです」
いったい誰がこんなことになるなんて予想するだろう。
今はもう会場にはほとんどの人が集まり、こちらを見ていた。
「そろそろ夜会が始まります。どうか私に、頭を冷やす時間をください」
お受験…
ストックたりるかな……汗
できれば前期で終わりたいものです




