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それぞれの思惑~ある被害者の場合~

この頃自分は浮わついている。

自分の竜、コクに餌を与えながらそう思った。

コクのすぐ横の房に青い竜がいる。深い青みをおびた鱗にくりっとした目、ここの竜の中でも指折りの美しさだと表されているいろいろな意味で有名な竜。

宰相様の補佐官、レゲル様の竜のレルチェだ。

俺がレゲル様から預かって育てている。ここに来たときは仔犬くらいだった体長は今はもう大型犬をゆうに越える大きさに成長していた。

このままうまく育っていけばきっとこの竜舎で一番の竜になることは間違い無さそうだ。まあ一部は俺が親バカだからかもしれないが。

元気に房の中を飛び回るレルチェは俺の姿を見て可愛らしい声を出して餌をねだる。

「お前は少し前に食べたろ。これはコクの分だ」

そう言うと残念そうな顔をしてそのくりっとした目で俺をじっと見つめる。

「そんな目をしてもあげれないものはあげれないの。今日はレゲル様が見に来るんだからスマートでいたいだろ?」

仕事の都合がつくと必ずレゲル様はレルチェに会いに来る。今日も来れそうだという連絡が入ってきていた。

だが、それだけで俺は浮わついているわけではない。三日前に届いたレゲル様の手紙が原因だ。

手紙にはもうすぐ行われる建国の式典の夜会の招待状が同封されていて、招待状を数名分もらったから来れないかという誘いのようだった。

叔父のホーリッツに相談して、その夜のコクとレルチェの世話については別の竜騎士に任せることになった。

この招待が自分が浮わついている主な原因だろう。

レゲル様をコクに乗せてから、俺はどうしてもレゲル様を忘れられなくなった。

どういうことなのかはその日の夜、一晩中考えた。

その結果、どうやら俺はレゲル様に恋しているらしいということを自覚した。

男を好きになったなんて誰にも相談できず、自覚してしまっただけに余計だ。

俺の初恋は普通の女の子だった。まあ所詮初恋は初恋に終わったけど。本当に俺はどうしちまったんだろう。

本人に言えるはずもなく、俺はただ悶々と日々を送っていた。

レゲル様が女性だったらどれだけ気持ちが楽だっただろう。

中性的な顔立ちをなさっているだけに余計にそう思ってしまう。

「おい、ユアリス!レゲル様がいらっしゃったぞ」

レルチェの房の前でぼんやりしていると同僚から声がかかった。

「わかった。今行く……げっ!」

慌てて立ち上がったせいで餌を入れていたバケツをひっくり返してしまい、半分ほど残っていた餌がこぼれてしまった。

「あっ、大丈夫ですか?」

その声と同時に、俺の横からスッと伸びてきた手がこぼれた餌を拾う。

「ありがとうご……って、レゲル様!?いいですよ、俺がやります」

「お忙しいところにお邪魔してしまった私のせいでもありますから、手伝わせてください。それにユアリスさんにはお世話になっていますし」

レゲル様は寝藁や土などでお世辞にも綺麗とは言いがたい床に膝を付きながらこぼれた餌を拾うのを手伝ってくれた。服が汚れるとか、そんなことは一切考えていないようだ。

ひととおり拾い終わると、レゲル様は先ほどから嬉しそうに鳴いているレルチェの頭を撫でて落ち着かせていた。

「ところで、先日お送りした建国の夜会についてなのですが、仕事の都合もあるでしょうから無理にとは言いません。ユアリスさんの仕事が増えたのは私のせいですし。本当にいつもありがとうございます」

そう言って朗らかに笑う様子を見て、なぜか一瞬あの日の出来事が重なった。空を飛んだときのレゲル様の顔だ。

顔が熱くなったのがわかり、俺は思わずレゲル様から顔を逸らす。

なんとか落ち着いて顔をあげると、レゲル様が不思議そうに俺を見ていた。

「レゲル様にそんなこと言われると思ってなかったのでちょっとびっくりして……あっ、夜会は出席できると思います。仕事も大丈夫です」

「それならよかった。カーレル様が一度ユアリスさんに会って話がしたいとおっしゃっていたので」

「えっ、宰相様が俺を?」

「はい。元々私にレルチェを渡したのはカーレル様ですから」

そういえば、レルチェはカーレル様からお土産でいただいたって聞いた気がする。王宮は不思議なところのようだ。

「とにかく、来ていただけると聞いて安心しました」

「いえいえ、夜会……しかも建国の夜会なんてそうそう行けるところじゃありませんし、楽しみです」

「では、お待ちしています」

そしてレゲル様はレルチェに視線を戻して遊び始めた。

レルチェのなつきっぷりやレゲル様の優しげな眼差しから、レゲル様が心の底からレルチェを大切に思っている様子が窺える。

その微笑ましい光景を見ながら、俺はレゲル様の招待だから嬉しかった、という言葉を飲み込んだ。



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