それぞれの思惑~夢見る乙女の場合2~
しばらくお父様のお誕生日についてお姉様と話し合っていると、ドアがノックされてお店の人が入ってきます。
「お連れ様がいらっしゃいました」
「ありがとう。ここにお連れしてくださる?」
少ししてアルが緊張した面持ちでやって来ます。お姉様に紹介して席に座ってもらいました。
どうすればいいのか、とその目は言っています。
遠回しに聞いても意味のないことなので単刀直入に尋ねることにしました。
「レゲル様のご趣味、好物、好きな女性のタイプ等々、知っていることを教えていただけませんか?もちろん、レゲル様が知られたくなさそうなことは結構ですから」
いくらお姉様とレゲル様の距離を縮めたいからといって、ずけずけと人のプライベートに踏み込むほど恥知らずではありません。私にだって知られたくないことのひとつやふたつあります。
アルは黙って考え込んでいます。
「うーん……趣味って言われてもあいつ……レゲルが何かを好き好んでやってるのはあんまり見ません。精霊院にいた頃は空いた時間は武術の鍛練してた気がするし」
「武術の鍛練をなさっていたのですか?」
思わずといった様子でお姉様は言います。レゲル様はとても優秀な精霊使い、武術の鍛練をわざわざする必要なんてないように思えます。
「精霊だけが取り柄で、精霊がいなかったら何もできないと馬鹿にされたのが悔しかったから始めたと本人は言ってました」
どうあがいても精霊に選ばれるか否かは精霊しだい。それだけに庶民のくせに精霊に多く選ばれたというだけで優秀者扱いされるレゲル様のことが気に食わない貴族がいたのでしょう。
「やはり、素晴らしい方ですわね」
同じ精霊使いだからわかります。精霊を使役するということは、自分の感情に攻撃能力が宿ることと同じ。
精神的に不安定になれば、精霊が勝手に行動することはよくあること。使役する精霊が多くなればなるほど、そして強ければ強いほど、それを押さえつけることは難しくなります。
五体の精霊を連れていらっしゃるレゲル様はどれだけ努力をされたことでしょう。
精霊使いは精霊と契約するだけでいいと世間では思われているようですが、実際は強い精神力と精霊に対する細やかな気配りと信頼を培わなければ精霊と本当の意味で協力することは不可能です。細かく精霊を使役するということができて初めて精霊の力を十二分に使うことができるのです。
その上でさらに武術の鍛練までなさるレゲル様は噂以上のお方です。
それを身分で馬鹿にする方の気が知れませんわ。
「他には何かございませんの?好みの女性などは?」
「えっ、あいつの好み……?ああ、大人しめであんまり派手かうるさくない娘……だったかな?」
あら、十分お姉様に当てはまりますわね。
お姉様はおしとやかであまり無駄話はなさりません。容貌も派手ではなく、むしろ儚げですわ。
「あと食べ物はこってりしたものは苦手で、果物とかさっぱりしたものが好きで、見ての通り小食です。でもお酒はけっこう飲めるみたいで、俺より飲みますよ」
レゲル様がかなり痩せているのは、あまり食べないからだったのですね。お酒はお父様も好きで、お姉様もたしなみ程度に時々飲んでいます。
……ですが、これくらいならアル以外でも知っていそうなことですわね。
彼とレゲル様は本当にお友達なのか、少し疑ってしまいました。
まあ友情というものはこれといった形のないもの。疑うのは勝手だと思いますが、口に出すことではありません。
「そう言えば、レゲル様にはご兄弟がいらしゃるとか」
確かレゲル様には下の兄弟がいらっしゃるとか。お話を伺いたいけれど、時間が無さそうですわね。とりあえず家族関係くらいは知っておきたいです。
「双子の妹と、もう一組双子の妹がいて、あとは弟が二人に一番下にもう一人妹、だっかかな……かなりたくさんいるみたいです」
「レゲル様は双子でしたの?」
双子の妹がいらしゃるなんて初耳です。あのレゲル様の双子の妹なら、少しくらい噂があってもよいような気がします。
「俺も最近会ったばかりで……」
そう言うアルの顔が、ほんの少し赤くなったことを、私は見逃しませんでした。
これはまさか、ええ、決まっていますわね。
「お好きなんですか?レゲル様の双子の妹さんのことを」
尋ねたとたん、アルの顔が一気に真っ赤になりました。分かりやすい方ですね。
「でっ、でももう振られたんです。怒らせてしまったというか、その……」
もごもごとなにやら呟くアルは……お姉様と私のことなんてすっかり頭から抜けていそうです。
恋は盲目と言いますし、仕方ないと思いますが、これでは話し合いになりませんわね。
本当に、どうしたものかしら。




