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それぞれの思惑~とある青年の場合~

仕事が終わって宿舎に戻り、郵便受けを覗く。

たいてい郵便物はないのだが、今日は珍しく二通も手紙が入っていた。

一通は実家から。そして最後の一通は、っと。あんまり見ない封筒だな。

「……あっ」

宛名を見ると、綺麗な字でアルシエラと書かれている。

どこにも差出人の名前はなかったが、誰からのものかすぐにわかった。あのフーレントース家のフェターシャ嬢の妹君、リフィアル嬢だ。

とりあえず誰かが入ってこないようにするため扉に鍵をかけ、落ち着くためにお茶を飲む。

恐る恐る開封し、中の手紙を広げる。

五日後に行われる建国の式典の夜会に姉のフェターシャのと出席することになった。もちろんそういう式典には必ず参加しているレゲルと多少話をする機会があるだろうから、その事について話があるから今夜とあるレストランで会えないか。

……だいたい、こんな内容だった。

読み終えて数分、手紙の内容が全く頭に入らない。

とりあえず俺に逆らう権利はなく、今から出かけなければならないということがぼんやりとわかってくる。

どうしてこうなったのだろうか。

特に伝えることもなく、恐れ多すぎて、あのパーティーの後にリフィアル嬢に手紙を出すことはなかった。

ああは言われたが、そう関わることはないと思っていたのに、まさか呼び出しとは……

これが他の男だったら、姉の恋愛相談とはいえ大喜びで向かったかもしれないが、俺はあいつの鈍感っぷりをよくわかっているつもりなので、正直憂鬱だ。

あのフェターシャ嬢相手でも全くそれは同じだろう。

挙げ句告白されたとしてもそれを断る未来も見える気がした。

指定されたレストランは俺も名前を知っている有名なレストランだから、格好もそれなりのものでなくてはならないだろうな。

着替えて外に出るとばったりと同僚に出くわした。

「その格好どうしたんだよ。なんだ、これからデートか?お前に彼女がいるなんて初耳なんだけど」

「ちげーよ。知り合いに会いに行くんだ」

まあ、知り合い……だよな?リフィアル嬢に呼ばれてレストランに行くなんて言ったらこいつはどう思うんだろうか。

譲れるなら喜んでこの立場を譲るよ。

「ふぅん。そういえばさ、お前ってほんと彼女いるとか聞かねーけど、気になる子とかいないのか?」

「それは今関係ないだろ。急いでるから行くぞ」

その反応は誰かいるな、と言う声が聞こえてきた無視することにした。

少し自分の顔が熱くなっているのを感じて、余計に恥ずかしい。

ふとしたときにレゲルの双子の妹だというレネッタさんのことを思い出す。どうして自分があの人にここまで心惹かれるのかはわからないが、今はとにかく女性と言われると思い出してしまうのだ。

レゲルにレネッタさんのことについて聞きたいという思いはあるが、今あいつは建国の式典の準備で忙しいらしく見かけても話しかけづらい。

そして見るたびにそっくりなレネッタさんを重ねてしまうので、話しかけるのが怖いというのもあった。

「お一人でしょうか」

レストランに入ると、ウェイターがゆったりとした笑みを浮かべて予約のほうは?と尋ねてきた。

俺は手紙と一緒に入っていたこの店の紙を見せる。白百合テラス席と書かれたその紙はどやら特別な意味を持つらしく、ウェイターの表情が少し変わった。

「少々お待ちください」

と言い残し、ウェイターは店の奥へ向かう。

「大変失礼いたしました。どうぞこちらへ」

しばらくして戻ってきたウェイターは何事も無さそうな様子で俺を店の奥へ案内し、百合を象ったプレートの掛かった部屋の前で立ち止まる。この部屋が白百合テラス席のようだ。

ウェイターは仕事を終えたとばかりに来た道を戻っていく。

どうやらこの先へは自分で行けと言うことらしい。

「……失礼します」

恐る恐る部屋に入ると、目の前にリフィアル嬢が立っていて、驚いてその場で固まった。

「お待ちしていました。突然お呼び立てして申し訳ありません」

「は、はい……」

リフィアル嬢はふわりとした黄色のドレスを身にまとい、優雅に微笑む。

その向こうにもう一人、淡い紫色のドレスを着た女性……リフィアル嬢の姉君で今夜の話し合いの中心人物、フェターシャ嬢が物憂げな表情で座っていた。

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