過去9
風呂に行ってくると言って、ティグルスは部屋を出ていった。
少し姿勢を崩して所々に染みや汚れのある天井を見上げる。
本当に今日はいろいろあった。
ある意味で私の人生を決定的に狂わせた原因の人物と戦って、そしてその狂った私の人生に気付かれた。
オスルについては、ここに来る前に来歴などを自分で調べたが、なぜ娼婦殺しということをしているのかということはうやむやでよくわからない。
父親が女好きで浮気性であったからなのか、それとも過去に彼が付き合った女性となにかあったのか、もっと他の理由があるのかは、本人の口から明かされない限りわからない。
とりあえず確実に言えることは、彼の人生も私同様、誰かによって狂わされた。彼一人で勝手に狂っていくものではないのだから。
本来あったはずの道をそらされ、今の道を歩く。どうしてこうなったのか、理由を知ったところで引き返せるわけじゃないから後悔と恨むことしかできない。
私はどれくらい人に恨まれているんだろう。そして同時に、感謝をされていたりするんだろうか。
考え出すとキリがないので、私はそこで考えるのを止めた。
しばらくして、風呂からティグルスが戻ってきた。
「レゲ……レネッタは風呂に行かないの?」
どう呼ぶべきか迷ったのか、ティグルスは舌を噛みながら尋ねた。
「大丈夫です。後で行きます。あと、名前は今まで通りでお願いします。今の私はレゲルですから」
ティグルスに知られたのはかまわないが、外で呼ばれたら困る。
「じゃあそうする」
ん?どうしてちょっと不満げなんだろう。呼びたかったのかな?いや、そんなわけないか。
「そうだ。あの約束は守ってくれるんだよね」
「遊びにいく約束ですか?」
「今回のことにかかった日数分、付き合ってくれるって約束。明日その一日にするから。仕事で帰るとか許さないから。父上様も、もう一日くらい大丈夫でしょ」
決まりだと勝手に決め付け、ティグルスは明日の用意を始めた。
「そうだ、もう少ししたら風呂に行くんだよね。明日の化粧の感じを試したいからこっち来て」
「明日の、化粧……?」
「レネッタの化粧に決まってるでしょ。どうせ女湯に行くんならそこで化粧を落とせば大丈夫だし」
そう言うティグルスの手には既にファンデーションが握られている。
「えっ?私、女装するんですか?」
「女装って……もともと女なのに何言ってるの?」
問答無用とばかりに、ティグルスは私を化粧台に座らせ、それはそれは楽しそうに手を動かし始めました。
その日は一日中いろいろな店に連れていかれた。服屋では数十着の服を試着させられ、なんだかふわっとした雑貨屋で髪飾りやら手袋やらを眺めさせられ、なにやらピンク色の可愛らしい喫茶店でお茶をさせられ、ホテルに帰った頃にはもうヘトヘトだった。
後日に女装の件はおいておいて、その事をカーレル様に話すと笑いながらこう言った。
「あと、何日残っているんですか?」
と。
これにて過去編は終了です。
疑問符を残す展開になったかもしれませんが、どこかで回収するかもです(*´∀`)




