殿下とお食事2
しばらくただの世間話をしていたが、不意に私の服のポケットがもぞもぞ動いた。
私は思わずポケットを見た。レルチェが起きたのだろうか。
そして、ポケットからひょっこりと顔を出したレルチェと目が合った。
レルチェは服に爪を立てて私の肩まで登ってきた。びっくりしすぎて止められなかった。殿下も固まってる。そりゃ当然だが。
「ド……ドラゴン?」
「ええ、はいまあ……ドラゴンのレルチェです」
殿下は目を見開きながらレルチェの方を凝視した。殿下のこんな顔は初めて見たかもしれない。
「見れば解るが、なぜドラゴンが?しかもヒナじゃないか」
「カーレル宰相様にいただきました。出張のお土産だと」
「ドラゴンを土産にするなんて初めて聞いたぞ」
殿下は食事を食べる手を止めて頭を押さえた。
「好きにしていいって言われたんですが、いくら好きにしろと言われても捨てるわけには……」
「飼育できるのか?」
「今はなんとかなっていますが……人が乗れるくらいのサイズになったらどうするのかはまだ。取り敢えず竜舎の方で預かってもらえないか交渉します」
殿下はレルチェの方に手を伸ばした。
レルチェは驚いて殿下の手におもいっきり噛み付いた。痛そう。ご飯あげるときにちらっと見えたんだけどかなり立派な歯が生えてた。
殿下の痛がる声がするかと思ったが、レルチェに噛み付かれながら殿下は平然としていた。少し血が垂れてますけど!
「だ……大丈夫ですか?」
「この程度なら平気だ。すぐ治せる」
そうだ。この人神精霊使だった。自分の傷くらい癒せるか。
いくら殿下が平気そうにしているとはいえ、噛み付かせっぱなしもまずいので私は持ち歩くことにしたレルチェの好物……と思われる干しブドウをレルチェのそばに持っていった。
レルチェは干しブドウに気付くとあっさりその口を殿下の指から放して干しブドウの乗った私の手に寄ってきた。
ちらりと殿下の方を見ると殿下は指を見ながら何かしていた。
するとだんだん殿下の指の傷はふさがって、あとは血だけが残った。
殿下は血を丁寧に拭き取ると、もぐもぐと美味しそうに干しブドウを食べるレルチェを見た。
「……私にも干しブドウをくれないか?」
殿下は私の手に乗っている干しブドウを物欲しそうに見た。
まさか殿下、小動物……というか生き物の子供が好きなんだろうか。意外な気もするけどなんか目に餌あげたいって書いてある気がする。
私は殿下に私の手に残っていた干しブドウをすべて渡した。
普段の作ったのか練習したのかって感じの笑いじゃなくて口角が自然に上がってるような……
レルチェは知らない男からのものなのではじめの方こそ警戒していたが、何もないとわかるとあっさり殿下の手から干しブドウを貰って美味しそうに食べ始めた。
知らない人から物を受け取らないように教えた方がよさそうだ。
「育てられないなら私が貰っていこうか?」
「刷り込み済みですから無理だと思います」
「冗談だ」
殿下は可笑しそうに笑うと、再びナイフとフォークを手に取って料理を食べ始めた。




