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過去6

少し薄暗くなってきた。そろそろ時間だな。

ティグルスに昨日と少し違う路地裏にぼんやりと立っていてもらい、人が来るのを待つ。

少しみすぼらしく見えるよう、暗い感じに化粧をして、服も娼婦らしいものなので、誰もこの少女が娼婦ではなく、しかも男だとわかるだろうか。

今日もまた、ティグルスは男に話しかけられ、丁重に断っていた。

その後、しばらく人が来ないなと思っていると、精霊から報告が入った。

『あの者が来ました』

『角からもうすぐ出てきます』

その報告を聞いたとたん、一気に鳥肌が立って全身が震える。

私は懐の小刀を握って、じっと角から出てくる人間を待った。

「こんな子供がなにをしている」

男……オスルはじっとティグルスを見ていた。

その目にはわずかに怒りの色が見える。

ティグルスには、オスルの容貌を全く教えていない。

見てすぐ挙動不審になられると困るから。

今ならまだ、ティグルスのような子供が娼婦まがいのことをしていることを怒っていて、注意しようとする大人に見えなくもない。

実際、ティグルスはすでに何度かこういう風に注意されていたりする。

ここで彼がティグルスになにもせず、ただ注意するだけなら彼はシロだろう。

「なにって、決まってるじゃないですか」

また注意だろうと、ティグルスはいつもと変わらない様子であしらおうとした。

「やはり、ろくでもない」

そこでオスルの目の色が変わった。

カチャリと金属がなる音がして、ティグルスの顔色も変わる。

これはもう疑いようがなかった。

私は隠れていた精霊に指示を出して、その間にティグルスを気絶させて陰に置いておく。ティグルスには悪いけど、オスルがなに言ってくるかわからないし。

「……レゲル殿、ですか」

目を合わせると、彼はあまり驚いていなさそうに言った。相変わらず表情が読めないけど。

あの時と全く同じ、冷えきった目。

手が震えているのがわかったけど、逆にぐっと短剣を持つ手に力を入れる。

「やはりあの時の子供はあなたでしたか」

「覚えているんですか?」

「もちろん。まさかこんなに近くにいたとは思いもしませんでしたが。しかも男として」

やっぱり、彼は覚えていたようだ。あの時の私は一応女の子の格好をして、髪も長かった。

「……あなたのせいですよ」

私はそう言って短剣を振るった。

母が死に、精霊使いになって精霊院に入ろうとしたとき、私が男として入りたいと思った理由。

女として入るより優遇されるから。みんなにはこう説明した。

でも本当は、そういうことにして自分を納得させたかった。

女をあの時に否定され、女だからお姉さんは殺されたのかと思った幼い私は、女であることを心のどこかで恐れ続けた。

私はずっと、この男のせいで、何かを失ったままだった。

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