過去2
どれくらいの時間がたったんだろうか。ぼんやりとソファーに腰かけたまま宙を見つめていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
連絡か何かかな?でも今は昼の会議の時間だから部屋には誰もいないってわかってるはずだけど……
『主人、さっきの男です!』
取っ手に手をかけようとした瞬間、精霊が慌てて教えてくれた。
私は付きかけた手をパッと離し、少し後ずさって深く深呼吸をする。
どうしてあの男……オスルがこんなところにまで来たんだろう。わざわざ来る必要はないはずだ。
扉の前で固まっている間に、何度かされていたノックの音が途絶えて、私はほっとしてその場にしゃがみこむ。
どうして私はオスルがこんなにも怖いんだろう。昔どこかで会ったことでもあるのだろうか。
やっぱり思い出せない。またいつか会うことになるかもしれないし、その時にカーレル様がいるとは限らない。
それで何かが起こってしまったら、カーレル様にも迷惑がかかってしまう。そんなことはしてはいけない。そのためにも、思い出さないと、逃げていたって前には進めない。
私は思いきって扉を開けた。
廊下の先にオスルがいる。扉の開いた音にこちらを振り向いた彼と目が合った。
怪訝そうにしながらもこちらにオスルが戻ってくる。
「先ほど突然お倒れになったので心配でしたもので。医務室に行ったのですがレゲル殿はいらしていないと言われましてね、こちらを訪ねさせていただきました」
全く心配などしていなさそうな冷ややかな目、なんと言えばいいのか、言葉が浮かばない。
「そ……うですか。ご心配をおかけして申し訳ありません」
声が震える。手を強く握って体が震えないように抑えるので精一杯だった。
「……まだよくなっていらっしゃらないようですね。どうぞ、お休みになってください」
私の様子を見て、オスルは感情のこもらない声で言った。
「はい……ありがとうございます」
それ以上オスルの目を見続けることができず目を逸らすと、彼の腰にかかっている剣が見えた。
さっきは目に入らなかった剣、その模様……
……思い出した。
その瞬間、目の前の景色が赤く染まったような錯覚に陥る。
私を呼ぶカーレル様の声が薄れていく意識の中で聞こえた気がした。




