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ルラ

「ルナのバカッ!」

思わず口に出してしまった。

一度口にしてしまった言葉はもう取り消せないのに。

どうしていいのかわからなくて、ルナの顔を見ることができない。

周りの人の視線が痛い。

気付いたら走り出していて、どこに行きたいわけでもないのに、とにかく離れようと私は走った。

疲れて立ち止まったら、ぜんぜん知らないところにいた。

周りは暗くなってて、歩いている人はあまりいない。

きっと今ごろお姉ちゃんとルナが私のことを探しているんだろうな。

……また迷惑をかけちゃった。

お姉ちゃんは忙しいのに、わざわざ私たちの我が儘のために休んでくれた。なのにこんなことでまたお姉ちゃんの気持ちを台無しにした。

私はお姉ちゃんやルナみたいに強くない。

臆病で、人見知りで、一人じゃ何もできないもん。

今の仕事だって、お姉ちゃんが偉い人になってなかったらなれなかった。

ルナはわかってると思ってたのに。私が人前に立つのが苦手だって、知ってるはずなのに。どうしてあんなことを言うの?

演劇を観るだけならいいけど、やってみる?なんて言われて観に行くなんてできない。

なれないのに、なるつもりもないのに、観に行っていいはずがない。そんなことできない。

帰ろうって、言って欲しかった。

迷わせないで、私にはできないよ。

別に、ルナの笑顔を崩したかったわけじゃない。どう答えればいいのかわからなくて、混乱して、言いたくないことを言ってしまった。

双子だからなのか、ルナの考えていることは今までは何となくわかったのに、今はぜんぜんわからない。

どう思ってるの?私のことを嫌いになった?

あんなこと言っちゃったんだもん。嫌いになるよね。あんなに嬉しそうにしていたのを、壊してしまったから。

さみしいよ、悲しいよ。

ねえ、ルナは今どんな気持ちなの?

私の前に人が来て、抱え込んだ腕の間から見える光が暗くなった。

しゃがみこんでいる私には、その人の足しか見えない。

でもそれが誰なのかはすぐにわかった。

「戻ろ、みんな心配してるよ」

毎日のように聞いている声、私とほとんどおんなじ声。

でもどうして?私を見付けるなら、お姉ちゃんの方が早いと思ったのに。

「ルナ……?」

顔を上げると、立っていたのはやっぱりルナだった。

「急に行っちゃうからびっくりしたよ。ね?戻ろ?」

優しい顔をしてルナが差し出してくれた手を、私は取ることができず首を振る。

取った方がいいのはわかっているのに、なぜかその手を取るのが怖かった。

ルナの顔が曇っていく。

そんな顔をさせたいわけじゃないのに、させたくないのに、私がこの手を取ればいいだけなのに。

「どうして?」

怒ったような顔のルナに、私は何も言えなくなってしまった。

言いたいことはあるの、謝った方がいいってこともわかってるのに。

「どうしてそんなに怒ってるの?私はルラを誘っただけなのに」

……私、怒ってるの?

「別に怒ってない。みんな私が悪いんだもん。人見知りだし、臆病だし、今だっていろんな人に迷惑をかけてて、ルナとは違うんだもん!」

私がそう言うと、ルナはムッとした顔をして、無理やりぐっと私の腕をつかんで立たせた。

「人見知りで、臆病だと思ってるならやってみればいい、迷惑をだと思うならその人に謝ればいいの」

「できたらこんなに困らないよ!それができないから、私は弱虫なのっ!」

ルナはわかってないんだ。私と違って自分の意見をしっかり言えて、強いから。

「ルナにはわからないでしょ?私とは違うんだもん」

「……それはそうだよ。当たり前でしょ?」

きょとんとした表情でルナは言う。

「当たり前?」

「だって、いくら私たちが双子でも考えてることことを知ってるまではわからないし、ルラはルラでしょ?違って当たり前だよ」

「でも……」

全然わからないってことはないんでしょ?ルナはきっと私の次に、私のことを知ってると思ってた。私だって、ルナのことは知ってるつもりだった。

「ルラは私のことを強いと思ってるみたいだけど、私だって初めてのことをするときは怖いし、一人じゃ何もできないよ。誰かがいないと誰かが困るんだから。まあ、最後のとこは服屋の店長さんの言ってたことだけど」

ルナは少し恥ずかしそうに言う。

「とにかく、ルラがいないと私が最初に困るの。お姉ちゃんがすっごく心配してるけど、私はもっと心配したんだよ。それに、ルラは頑張ってるよ。自分から働きに行くって言ったのだって、たくさん考えて決めたことなんでしょ?私はルラはすごいと思うよ」

そして、再びルナが手を差し出してくれた。

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