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観光 アル

何を言ったのかは、自分でもよくわからない。

だが、レネッタさんに告白してしまったことはさすがに覚えている。彼女は向こうに見える路地に走っていってしまったが。

もちろん、いい返事が返ってくるなんて思ってはいなかった。まあ少しくらい期待もあったけど。

しょせん期待は期待でしかなかったらしい。彼女は行ってしまった。

「お姉さんを混乱させたみたいで……せっかくの観光の邪魔だったね」

俺は取り残された二人に謝った。二人にとってはよく知りもしない俺のせいで観光が台無しになってしまったのだから。

「大丈夫。お姉ちゃんはびっくりしちゃっただけだよ」

さっき俺に話しかけてきた方の女の子が安心させるように笑ってくれた。

「でも俺……」

「お姉ちゃんはあっちに行ったよ。追いかけないの?」

どことなく試すような目をしているように思えた。まあ自分の姉のことだからそうなってしまうのだろうけど。

「まだ振られたわけじゃないもん」

……確かに、返事はもらっていない。振られた、というわけではないんだ。

「観光はいいの?」

「お姉ちゃんが落ち着いてくれるならそれでいいの」

落ち着く?どういう意味だろう。レゲルと双子ってことは歳も同じってことで、年齢的に嫁き遅れてるってことだろうか。だからさっきからこの子は俺の背中を押そうとしているのか。

それより、今は彼女を追いかけないと。二人のところに連れ戻さなければならないし、返事も聞きたい。たとえ振られるとしても。

俺はレネッタさんの消えた路地を進んだ。薄暗く、女性が入っていってもいいような路地では無さそうだ。

奥に進んでいくと、女性の話し声が聞こえてきた。

「ここには人と来ています。そこをどいてください」

「つれねーなぁ、いいじゃねーかちょっとくらい」

「触らないでっ!」

パンっと、何かを払いのける音がした。どうやらレネッタさんがたちの悪いやつに絡まれているようだ。助けないと……

「いてーじゃねーか、腫れたらどうしてくれんだよ」

「……これで大人しく退く馬鹿ではないみたいですね」

……そんな挑発をされて黙っている奴ではない。俺が路地の角から飛び出した瞬間、レネッタさんが話をしていたらしい男が向かいの壁に吹っ飛んだ。

俺に気づいていないようすで、レネッタさんは吹っ飛んだ男にゆっくりと歩み寄る。

「相手が悪かったですね。次はこの程度で済みませんから」

男は虚ろに開いた目でレネッタさんを見ていた。そしてその言葉にぼんやりと頷く。

そしてこちらを振り向いたレネッタさんは、俺と目が合い、気まずそうにすぐ違う方を向いてしまった。

「……どこから見ていましたか?」

目線は決して俺の方に向けることなくレネッタさんは訊ねた。

「えっと、その男が飛ばされたところ、から……?」

会話はその少し前から聴いてたけど、言わないほうがいいかな。

俺の返事に、レネッタさんは黙ったまま答えない。

「レネッタさんも精霊使いだったの?」

「はい」

どこか上の空でレネッタさんは言う。少しだけ、彼女はレゲルなんじゃないかと思った。

確かめたいけど、聞いてしまったらレネッタさんはどこか、もう二度と会えないところに行ってしまうような気がして聞けなかった。

「俺は待ちますから、レネッタさんの返事。なので、あの……」

この次に、何を言えばいいんだろう。言葉が思い付かない。

レネッタさんは俺の方をじっと見て、俺の言葉を待っているようだった。

「断られても構いません。レネッタさんの返事が返ってこれば、それだけでいいんです」

俺はレネッタさんの目を見つめ返して言った。

今すぐ返事を期待してはいけない。いつか返事が返ってくると思えれば、俺は待っていられる。

「戻りませんか?レネッタさんを無事に妹さんたちのところに送ったら俺は行きますから」

「……一人で戻れます」

素っ気なくそう言い残したレネッタさんは、たっと早足で行ってしまう。

俺は黙ったままその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

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