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観光 アル

長めの休みを貰ったので、久々に実家に帰ろうと途中、ケラセレ区の大通りで手土産でも買っていこうとしていた時だった。

ガラスに映る人波の中に知り合いを見つけたような気がして振り向く。同僚か誰かか?にしては誰だかわからなかったな……

少し辺りを見回してみる。気のせいだったのか……?

「れ、レゲル?」

人混みに紛れて、一瞬レゲルの顔が見えた気がした。でも、あいつは基本的に忙しいやつだ。それに最近可愛がっていたドラゴンのレルチェと離ればなれになってしまい、凹んでいると聞いているんだが。

他人の空似かと思ったが、妙に引っかかる。

俺は買い物を中断して、レゲルっぽい人が行った方へと向かった。

人が多いので、見付からなかったら諦めようと思ったとき、俺はその人を見つけた。

二人の女の子をつれた女性。髪が長く、化粧もしているが、顔はレゲルにそっくりで、レゲルが女装したらあんな感じになりそうだ。

さりげなく近くに寄っていくと、女の子たちとその女性との会話が聞こえてくる。

「お姉ちゃん、あそこかなぁ?」

「そうかも、場所はこの辺りだから」

女の子が指差した方には、雑貨屋が多いことで有名な通りがある。買い物に来ているのだろう。

にしても、そっくりすぎないか?妹がいるとは聞いてたけど、歳が離れてるって言ってたような……

悩んでいるうちに、その三人は雑貨屋の通りに消えていく。

追いかけると、二人の女の子がピンク色の可愛らしい雑貨屋に入っていき、そのあと少しして女性も中に入るのが見えた。

しかし、入っていったと思ったらすぐに女性は店から出てきて、疲れたような表情でベンチに座る。

レゲルにそっくりなその表情を見ているうちに、なぜか心臓の鼓動が速くなり、その女性から目が離せなくなっている自分に気づき、そして話しかけていた。

「あの……」

「はい、何で……」

レゲル似の女性はこちらを振り向く。

「間違っていたら申し訳ないんだけど、貴女はレゲル…… 様の妹?」

もし間違っていたら俺はただの恥ずかしい奴になりそうだ。

返事はない。突然知らない男に話しかけられ驚いたのか、呆然としている。

「ま、間違ってたかな。あんまり知り合いに似てたから ……」

気を取り直したのか、女性は笑顔で答えた。

「いえ、レゲルは私の兄です。兄さんの知り合いの方で すか?」

よかった、合ってた。間違っていたら恥ずかしいし、向こうも気まずいし。

「あっ、やっぱりそうなんだ。ずいぶん似てるけど双子 ?」

「はい。兄さんから聞いていませんか?」

「初めて聞いた。下に歳の離れた妹がいるとは聞いてたけど」

「そうなんですか?あっ、私はレネッタです。あなたは ?」

へえ、レネッタさんっていうのか。俺も自分の名前を名乗って、少し話をしていた。

「お姉ちゃん、その男の人は誰?」

不意に横から女の子の声がした。どうやら、レネッタさんの妹のようだ。しかも双子。

レゲルとレネッタさん、この妹二人も双子なのか。レネッタさんじゃないけど、偶然ってすごいな。

少し話をしていると、レネッタさんの表情が少し強張る。

レゲルの、女たらしっぷりの話はまずかったか!何で話したんだよ俺っ!

「ああ、ごめん。引き留めちゃって。観光中なんだよね」

気まずくなってきたので、俺はあわてて話題を変えた。とても申し訳ない。

そうしているうちに、三人は別れのあいさつをして、他のところへ行ってしまう。

俺はなんとも言えない心地でそれを見ていた。

数歩進んだところで、双子の一人が俺の方にやって来た。

「どうしたの?」

女の子は少し躊躇いながらも、俺に顔を近付けるように言う。言う通りにすると、女の子は俺の耳に口を近付けて言った。

「アルさん、お姉ちゃんのこと好きなの?」

「はぁっ!?」

俺はぱっと顔をあげた。少し顔が赤くなっているのがわかる。

「だってお姉ちゃんの方をずっと見てるんだもん」

「そりゃあ、レゲルにそっくりだなぁって。それだけだ よ、ほんとに」

「ウソはダメだよ。私見てたもん。アルさんのこと」

「ウソって……」

言い返そうとしたが、言い返す言葉が見つからない。どうして何も言えないんだ。

「どう思ってるの?お姉ちゃんのこと」

何も言えないでいる俺に念押しするように 女の子は俺をじっと見た。

「どうって、可愛いと思うよ、でも……」

「告白されて嬉しくない女の子なんていないもん。もう 会えないかもしれないんだよ」

こっ、告白って何だ?でももう、会えない……レゲルに仲介してもらうか?でもそれでいいのか?

そもそも俺は、レネッタさんのことをどう思っているんだ?

「じゃあ私は行くね」

悩んでいる俺に背を向けて、女の子は何事もなかったかのようにレネッタさんたちの方へ戻っていく。

その後、三人で仲良く会話をしている様子を見ているうちに、俺は俺に対する質問の答えを見つけた気がした。

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