観光 ルナ
今日はお兄ちゃんじゃなくて、お姉ちゃんと観光だ。
楽しみで楽しみで、朝早起きしなきゃいけないのに夜は全然眠れなかった。
それはルラも同じみたいで、ケラセレ区に着いた馬車から降りて、眠そうに目を擦っていた。でもよくあんなに揺れる馬車の中で寝れたなぁ。私はずっと揺れが気になって眠れなかったのに。
久しぶりに会ったお姉ちゃんは、ちゃんと女の子の格好をしていた。
知り合いがいるかもしれないから王都は駄目って言われたけど、大丈夫じゃないかなぁ。お姉ちゃんはこんなにかわいいんだから。
しばらくお姉ちゃんとお喋りをして、街を歩いた。
こんな都会、見たことないなぁ。
あちこちに可愛いお店があって、見たこともないものを売っていたりする。何より、歩いている人がみんなお洒落だった。
服屋さんで働くようになって、少しファッションには自信があったのに、ここでは普通の服装になっちゃってる。それは少し悲しかった。
お昼はルラの希望で食堂で食べた。私はそこまで食べ物にこだわりはないから、別になんでもよかったんだけど。
服屋さんもいいけれど、この辺りは雑貨屋さんがたくさんある通りがあると、食堂のおばさんが教えてくれたから、先にそこへ行くことになった。
可愛いお店から大人な雰囲気のお店まで、そこにはいろいろな雑貨屋さんがあった。
ピンク色の雑貨屋さんが見える。きっとあそこには可愛いものがあるな。
ルラと出発するときに約束したんだ。女の子の格好をしてるお姉ちゃんに可愛いものをプレゼントしてあげるって。お姉ちゃんにはもちろん内緒だけどね。
お姉ちゃんにぴったりの可愛いもの探したけど、お姉ちゃんの今の格好に合いそうな物はなさそう。ルラもそう思ったみたいで、このお店では何も買わなかった。
外に出てお姉ちゃんのところに行こうとすると、お姉ちゃんが知らない男の人に話しかけられているのに気付いた。
誰だろう。お姉ちゃんがいくら可愛いからって、ナンパは許さない!
「お姉ちゃん、その男の人は誰?」
少し男の人を睨みます。お姉ちゃんに何かしたら許さないんだから。
「兄さんの精霊院のお友達のアルさんだって」
あっ、そうなの?兄さんのお友達ってことは、お姉ちゃんのお友達?どうしよう、失礼なことしちゃった……
謝ったら許してくれた。お姉ちゃんのお友達だし、悪い人じゃないんだろうな。
でも、気になったのはそのアルさんが次に言った言葉。
お姉ちゃんが、女たらし?この人は何を言っているんだろう。
「………」
私は少しだけ、お姉ちゃんを呆れた目で見てしまいました。
お姉ちゃん、そんなことしてたんだね。王宮がどんなところかわからないけど、男の人がそれをさらっと言ってしまうのは、少しまずいんじゃないかな。
誉められて悪い気はしないと思うけど、それは、ちょっと……
「ああ、ごめん。引き留めちゃって。観光中なんだよね」
アルさんは申し訳なさそうに言います。その表情を見て、私は気付きました。
アルさん、少し寂しそうじゃありませんか?
お別れを告げて、別れて数歩歩いてから、私はちらりとアルさんの方を振り向いた。
じっとこっち、お姉ちゃんの方を見ていました。
「お姉ちゃん、ちょっと待ってて」
私はこっちを見ていたアルさんの方へ戻ります。戸惑いながら、アルさんはどうしたの?と聞いてきます。
私はお姉ちゃんに聞こえないように、アルさんに聞きました。あっ、お姉ちゃんの精霊さんが聞き耳を立てていないかは、しっかり確認しました。
「アルさん、お姉ちゃんのこと好きなの?」
「はぁっ!?」
アルさんは慌てふためいて、顔を赤くします。
「だってお姉ちゃんの方をずっと見てるんだもん」
「そりゃあ、レゲルにそっくりだなぁって。それだけだよ、ほんとに」
「ウソはダメだよ。私見てたもん。アルさんのこと」
「ウソって……」
アルさんは何か言い返そうとしたけれど、何も言いませんでした。
「どう思ってるの?お姉ちゃんのこと」
そう訊ねると、少し赤かった頬が、もっと赤くなった。分かりやすい人だなぁ。
「どうって、可愛いと思うよ、でも……」
その言葉の裏にはきっと、友達の妹だからっていう思いがあるんだ。そんなこと、気にしないのに。
……まあ、お姉ちゃんはアルさんのこと、なんとも思っていないだろうけど。
「告白されて嬉しくない女の子なんていないもん。もう会えないかもしれないんだよ」
少し迷っているように見えるのは気のせいかな?
「じゃあ私は行くね」
アルさんが今どんな顔をしているのかはわからないけど、私はちょっとくすぐったい気持ちでお姉ちゃんの方に戻った。
その後
「何かあったの?」
「あの人、ズボンのチャック開いてたの」
こんな会話が予想されます




