観光3
どうしてこんな所にいるのか聞きたかったけど、この状況では聞けない。というか聞いてはいけない。
私とアルは初対面でなくてはならないから。
「ま、間違ってたかな。あんまり知り合いに似てたから……」
はい。似てるも何も本人です。絶対言わないけどっ!
ここはもう、女の私で通すしかない。女装癖があると思われるよりましだっ!
それに声とかいつもあえて低くしてるのを、今日は普通の女みたいに高くしたまま返答しちゃったから、わざと高い声出したなんて冗談では通りそうにない。
「いえ、レゲルは私の兄です。兄さんの知り合いの方ですか?」
私はレゲルの妹、普段の私、レゲルを私とは別の人間だと思えばいい。
「あっ、やっぱりそうなんだ。ずいぶん似てるけど双子?」
「はい。兄さんから聞いていませんか?」
ここまで似てたら、双子じゃない方がおかしい。
「初めて聞いた。下に歳の離れた妹がいるとは聞いてたけど」
「そうなんですか?あっ、私はレネッタです。あなたは?」
知り合いに名前を訊ねるなんてアホらしいけど、こうしておけばまさか元々知り合いだなんて思わないだろう。
「アルです。アル・メセルソン。レゲルとは精霊院の同期なんだ」
「アルさんですね。そういえば一度兄さんから名前だけなら聞いたことがある気がします」
「あいつが俺を?何て言ってた?」
「そこまでは覚えていません。ところでここには何をしに?」
こんな女の子向けの雑貨屋の通りに何の用事があるんだろう。好きな子でもできたのかな。
「いや、あんまりにもあいつに似てたから、妹の誰かかと思って……」
あー、付いてきてたのね。どこからかは知らないけど。それで私だけお店から出てきたから、話しかけてみようと。
本当に知り合いだったからいいけど、よく考えてみるとあれは新手のナンパっぽかったよな。
アルの見た目がチャラチャラしてなくて、普通のどっかの男に見えるのが幸いか。
とりあえず、ここを離れたい。ルナたち早く出てこないかな。
そうは思っても、二人が出てくるわけではない。今頃中で楽しんでるんだろうな。お店の中に入るのもあれので、私から行くのはちょっとなーって感じだし……
「他に二人の女の子も一緒だったよね。あの子達は?」
「あのお店の中です。私はああいう雰囲気のお店は苦手なので、外で待っているんです」
「そうなんだ。妹?」
「はい。あの子達も双子なんです。偶然って凄いですよね」
双子が二回って、どんな確率だ。
「男と女の双子はあんまり似てないイメージだったけど、レネッタさん達はそっくりだね。レゲルが女装したらきっとレネッタさんみたいな感じになりそうだ」
適当に言ったんだろうが、合ってるからちょっとドキッとした。ばれてなさそうだからいいんだけど、心臓に悪い。
「ごめん、男に似てるなんて失礼だったよね」
私の表情を見て何かを感じたらしい。それを男に似てるという言葉を気にしたと取ったようだ。
「気にしていませんよ」
その後、少しお喋りをしているとルナとルラがお店から出てくる。
「お姉ちゃん、その男の人は誰?」
ルナがアルをじっと見ながら言う。ルラも疑り深い目でアルを見ていた。これは……ルラはアルをナンパだと思ってるな。
「兄さんの精霊院のお友達のアルさんだって」
そう言うと、二人はアルに向けている視線を弱めた。
「そうだったんですか。失礼なことを……」
「大丈夫、気にしてないから。俺がナンパかなにかなら、レゲルは今頃結婚詐欺師になってるよ」
……それはどういう意味だろう。いろいろ聞き捨てならないんだが。
「それはどういう意味ですか?」
「いや、あいつかなりモテてるのに誰とも付き合おうとかしないんだよ。自分がモテてるのは地位と能力のお陰だと思ってるからな」
だってそうじゃないの?それ以外に私のどこに魅力を感じるのだろうか。この顔に一目惚れするなら殿下辺りの美形に出会おうもんなら瞬殺されるよ。
「何か、問題でも?」
「そこはいいんだけど、地位とか能力だけに惹かれただけなら。問題はあいつ、その憧れを無意識のうちに本気に変えてるというか、天性の女たらしというか……」
「どういうことですか!?」
語気が強まった。当たり前だ、私が何をしたというんだろう。
「地元じゃ違った?あいつ時々女の子を前にするととんでもない台詞が出るんだ。女たらしが使うような……笑った方がきれいだの、お似合いですよ、とか」
それのどこに問題があるんだ?女性を誉めてはいけないなんて法律はないだろう。それに嘘はついてないし。
「女性相手にそんな台詞がさらっと出るもんだから、そうだと気付かずに本気になる女の子がけっこういるんだ。俺が知らないところでもあれをやってたとすればだけど。俺はあんなこと女の子に面と向かって言えねーよ」
へぇ、そういうものなんだ。にしても、目の前にいるのがレゲルじゃないからって好き放題言ってるな。今度会ったとき妹から聞いたって言ってやる。




