観光2
注文した料理が運ばれて来た頃には、ぽつりぽつりと他のお客さんがやって来て、店が少しずつ賑やかになっていた。
食べ終わると、店はほとんど一杯になっていて、おじさんもその奥さんも忙しそうにしている。
少し早く食べ終わったルラは、なぜかその手伝いをしていた。行くよと声をかけると少し寂しそうにしながらおじさんにお礼を言う。
「手伝ってくれてありがとうね。観光の途中なんだろう?楽しんでおいで」
「うん。ありがとう」
奥さんがルラの頭を撫でる。おじさんは料理をしながら横目でちらりとルナを見ていた。
私は奥さんに代金を支払って、ふと思い付いたことを訊ねる。
「あの、ここは夜も営業していますか?」
ルナとルラは今夜は素泊まりのホテルに一泊して、明日の朝一番の馬車で帰る予定になっている。
夕食の場所を決めていなかったので、今夜もここに来ようかな。
「やってるけど……夜はお酒を出すから居酒屋みたいになってるよ。気持ちは嬉しいんだけど危なかもしれないし……」
「そうですか。ルラはどうしたい?」
私はルラに訊ねる。私が一緒にいるからよっぽどのことがない限り安全ではあるけど、奥さんが心配してくれているし。
「来たいけど……」
「私はどっちでもいいよ。それにお姉ちゃんがいれば大丈夫だもん」
少しそわそわしながらルナも答える。ルナは早く外のお店に行きたいんだろうな。食べながらどこにいくかの相談したし。
「そうかい、なら席を取っておこうか?厨房に近い奥の席なら少しは安心だろう?」
奥さんは少し嬉しそうに言う。せっかく来たんだし、ルラたちには好きなことをして欲しい。
「お願いします。突然なのにすみません」
「いいんだよ。早くいっといで、ルナちゃんも早く観光したそうだし」
嬉しそうに奥さんは言って、私たちを送り出してくれる。
ルナとルラはおばさんに手を振って、お店を出た。
「雑貨屋さんに行きたいんだよね?」
さっき話し合ったばかりだから覚えてるけど、一応確認のためにルナに訊ねる。
「うん。その後は服屋さんに行くの」
楽しみです仕方ないというようにルナは答えた。ルラも少し寂しそうではあるけれど、雑貨屋が気になるのかあちこちをキョロキョロ見回している。
「雑貨屋さんって言ってもたくさんあるからね。気になるところに行こっか」
「あそこ、あそこに行きたい」
ルナはそう言ってピンクを基調にしたそれはそれはファンシーな雑貨屋を指差した。
あっ、あそこに入るのか……これはちょっとした勇気がいるよ。こんなとこ入ったことないし、入ろうと思ったこともないし。
私が若干引いているのも気にせず、ルナは嬉しそうにそのファンシーな雑貨屋に迷うことなく入っていく。そのあとにルラが続いて、そのお店の前に私は一人残された。
一緒にいないとまずいかなと思って、意を決して中に入る。
うわー、すごいとこだな、ここ。
所狭しと棚が並び、色とりどりのアクセサリーやら文房具やらが置かれている。私一人だったら絶対入ろうなんて思わないだろう。たとえ今のように女の姿をしていたとしても。
ちょっとこの空間は私には耐えられそうにない。
私は精霊に二人を見ていてもらうことにして、店の外に出る。
お昼時なので、雑貨屋が並ぶこの通りの人通りは少ない。
ベンチを見つけて、私はそこに腰を下ろした。
ルナとルラはしばらく出てきそうにない。二人が楽しんでるんだら私はそれで十分なんだけど。
今頃お店の中で年頃の女の子らしく目を輝かせているんだろうな。そう思うと連れてきてよかったなと、多少疲れても平気な気がする。
「あの……」
私には入るので精一杯なお店を眺めながらぼんやりしていると、唐突に後ろから声をかけられた。
「はい、何で……」
私に何の用だろうと、特に何も考えずに声のした方を見る。
そして、驚きのあまり先の言葉が続かなくなった。
「間違っていたら申し訳ないんだけど、貴女はレゲル……様の妹?」
物凄くなんとも言えない表情でそんなことを訊ねてきたのは、レゲルとして私の友人、アルだった。




