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被害者

仕事中に突然叔父のホーリッツが現れて、俺はとても驚いた。

叔父さんは忙しい人だ。わざわざ俺のところに来るなんて、お前にぴったりの仕事があると言われ無理やり叔父さんの研究室に連れてこられたときは、最初とても腹が立った。叔父さんを殴りたいと思ったほどに。

でも、案内をしろと言われた相手を見て、俺はその怒りも忘れるほど驚いた。

そこにいたのは、ずっと前から憧れていた精霊使、今は宰相補佐官のレゲル様だったから。

騎士団に入団して、精霊騎士になるための精霊使の資格を得るために一時的に所属していた精霊院で何度も噂を聞いていた。

当時レゲル様が在籍していた指導部は、純粋に精霊使の指導に当たる部署だったので、精霊騎士になるために所属していた俺とはほとんどなんの接点もない。

でも一度だけ、レゲル様は覚えていないだろうけど、レゲル様は俺を助けてくれたことがあった。

精霊使の資格を得るには、精霊に関する筆記試験と実技試験を受ける必要があった。精霊院の精霊使とは少し内容などに違いはあるものの、難しさは同じだ。筆記は覚えさえすればできるが、実技は覚えるだけでは足りない。

当時の俺は力の細かいコントロールが苦手だった。今のように体を温めることが不可能だったくらいに。

なかなかうまくできずに困っていて、実習の部屋に残って練習していたところに、レゲル様が入ってきたのだ。

その時は誰なのかわからなかった。レゲル様については噂でしか聞いていなかったから。

先輩に頼まれて物を取りに来たというレゲル様は、一人で実習の部屋に残っていた俺に何があったのか訊ねてきた。

自棄になっていた俺はレゲル様に事情を話した。

すると、けっこう失礼な物言いをしたのに、レゲル様は真面目に俺の言ったことについて考えてくれた。

自分の精霊を使役して、自らコントロールのコツを教えてくれたのだ。

急いでいたのか、そのときはコツだけ教えてそのまま行ってしまった。どうせ精霊使だから簡単にできるんだろうと、ほとんど信用せずに、そのコツを使って精霊に命じた。

そうすると、あれほどまで出来なかった細かいコントロールが、少し出来るようになった。信じられずもう一度やってみると、もっと精度が上がっていた。

俺は立ち上がって、部屋を出ていってしまったレゲル様を探そうとした。でも時間が経っていて、その日は見付けることが出来なかった。

しばらくして、精霊使の認証試験の日、試験監督としてその場にいたレゲル様と再会した。でもあのときのお礼はできなかった。話しかける機会がなかったから。

それにレゲル様があのときの人だとその日に知って、なんて話しかければいいのかわからなかったというのもある。

かなり乱暴な物言いをしたのに、わざわざコツを教えてくれた。噂になるほど凄い精霊使なのに、人を見下すこともなくしっかり人のことを考えてくれた。

この日から、俺はレゲル様に憧れていた。

今こそお礼を言う機会かもしれないが、今言ったところで、レゲル様は覚えていないだろうし、思い出そうとしてくれるだけだろう。

そんなことをさせてはいけない気がした。思い出せないことを気にしそうだから、言わないことが一番のお礼かもしれない。


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