竜の雛4
ユアリスに連れられて竜屋から広い飛行訓練の草原にやって来た。
ちょうど訓練中の竜騎士と、その訓練の様子を眺めている新人たちがいる。
「この辺りでお待ちになっていてください。ドラゴンを連れてきますから」
竜屋に戻っていくユアリスの後ろ姿を見ながら、私は鞄からレルチェを出した。出してあげないと可哀想かなと思って。
鞄からぴょこっと顔だけ出したレルチェは、物珍しげに辺りをキョロキョロと見回した。
そして空を見て、楽しそうにキュウと鳴く。ちょうど訓練中のドラゴンが青空を旋回しているところだ。青い空に赤みがかった茶色のドラゴンが飛んでいる。
レルチェと空を飛ぶドラゴンを眺めて、ユアリスが戻ってくるのを待った。
どこからか黒いドラゴンがやって来て、しばらくその茶色のドラゴンと並んで飛び、私の方に向かってまっすぐ飛んでくる。
ちょっと待って、私が乗るのってあれ?状況的に考えればそうだけど、心の準備がまだできてない。空を飛ぶとか、産まれて初めてですから。
そんな私の心境をよそに、着地した黒いドラゴンからユアリスが降りてきた。
「二人乗れるドラゴンなので、普通より少し大きいんです。あの、今更なんですが、高いところは平気ですか?」
本当に今更の質問だな。まあ高いところ云々の話をしてなかったのもあるけど。
「多分平気です。ですが、どうやって乗るんですか?」
見た感じ鐙とかそういう類いのものは見えない。どうやって乗ってたんだろう。
「これを腰に巻き付けて、登ってからその止め金で俺のここと留めてください」
そう言ってユアリスは私に止め金の付いたベルトのようなものを手渡してきた。言われた通り、それを腰に巻き付ける。
「俺が先に乗るので、レゲル様は俺の後ろに乗ってください。あまり上空には行きませんから危険はないはずです。ですが、時期的にも寒いので……本来なら防寒をするんですけど、俺はいつも精霊に暖めて貰います」
「ユアリスさんの精霊は火精霊なんですか?」
「はい。まあレゲル様には負けますが」
そう言いながらユアリスは黒いドラゴンの背に跨がる。慣れているのか結構でっかいドラゴンの背にあっさりと登っていった。
私も乗ってみよう……とするけれど、なかなかうまくいかない。ざらざらした鱗に手をかけて登ろうとしても、手の力が足りないのかすぐに手が滑ってしまう。
見かねたユアリスが手を貸してくれたので、なんとか登ることができた。馬に乗ると目線が高くなるけど、ドラゴンの上はそれ以上だ。転がり落ちたら相当痛いだろう。痛いだけで済むかどうかは置いといて。
とりあえずベルトっぽいものの止め金を、ユアリスの背中に付いた輪に引っ掛ける。
「しっかり掴まっていて下さいね。あと足でしっかりドラゴンの背を挟んでください。回転とかはしません、ただ飛ぶだけなので……では、行きますよ」
言われた通り、ユアリスにしっかりと掴まった。そしてぐっと足に力を入れる。鱗の凸凹が地味に痛いけど、空を飛ぶというのは少し楽しみなので、我慢。
「っていうか、レゲル様細いですね」
思わず口を付くようにして出てきたのか、はっとユアリスはすみませんと謝る。
まあ女らしさなんて欠片もないですから、なければ細くもなる。その部分の成長ならとうに諦めているし、悲しくなんか……ないもん。
不意にぐいっとお腹が持ち上げられた。飛び立ったのに気づき、私は慌ててユアリスを掴む力を強めて目を瞑った。




