竜の雛3
「いやー、光栄です。まさかレゲル様の案内ができるなんて」
ユアリスは私の前を嬉しそうに歩いている。
私たちが向かっているのは竜屋、ドラゴンが飼育されているところだ。
「にしてもなぜ精霊騎士からわざわざ竜騎士になったんです?騎士の花形とはいえ、辛い場所ですよ」
「俺も精霊騎士で十分だったんです、でも叔父さんが勧めてきて……初めは辛かったんで叔父さんに騙されたと思ったんですけど、慣れたらまあこのままでいいかと。ドラゴンも世話をしているうちに可愛くなってきて」
ユアリスはこれが地なのか、やや砕けた口調で竜騎士になった経緯を説明してくれた。
ドラゴンと触れられる、騎士の花形、楽しいなどと叔父のホーリッツに言われたようだ。いくら人が足りないからといってまさに新人が憧れている理想を使って甥っ子を騙すとは。案外ホーリッツは腹黒かもしれない。まあ結果的にはよかった……のかな。
「あっ、レルチェちゃんは隠しておいた方がいいかもしれません。子供とはいえドラゴンですから、警戒されてしまうこともあるので」
そう言われると思って、元からレルチェは鞄の中だ。肩に乗りたがったが、重くなって長時間乗せていると肩が凝ってしまう。
ユアリスが開けた扉の向こうには、巨大な檻があった。その奥に見える緑色の何か、かなり大きな何か。たぶんドラゴンだ。
「あれはサノ種という種類のドラゴンです。ちょっと凶暴なので、レゲル様はあまり近づかない方がいいかもしれません」
そのサノ種というドラゴンは檻の隅で丸くなっているので、きっと寝ているのだろう。にしても、
「やっぱり大きいですね」
こんなに離れているのにあれだけ大きく見えるのだ。近くで見たら巨大な岩が目の前にある感じだろうか。
「あいつはここじゃ普通の大きさですよ。とりあえずレゲル様のレルチェちゃんと同種の、ドクル種のいるところに行きましょう。その種は大きさ、色とともに多様な種ですから、ここでも一番飼育数が多いんです。何より飼い慣らしやすいですから」
へぇ……ちなみに竜舎の人間はほとんどレルチェのことを知っていて、レルチェちゃんレルチェちゃんと、何かと可愛がられている。ドラゴンの雛はこの竜舎では見かけないかららしい。
「あっ、あれです。あの大きさなら大人三人は余裕で乗ることができますよ」
一番大きいと言うだけあって、檻も一番大きく頑丈そうにできている。日が差し込むように設計された檻の中で、そのドラゴンは大きな目玉で、見慣れないからだろう、私をぎろりと睨んでいた。
「ここで一番大きいドクル種のダイドです。見た目はアレですけど、温厚で賢いドラゴンですよ」
ダイドというドラゴンは私を敵ではないと認識したのか、興味を失ったようにそっぽを向いてしまう。
「見られていただけでも凄い威圧感ですね」
「ドラゴンはどれもそうですよ。初めての物に対する警戒心は強いですし」
ユアリスは笑いながら私を小さな扉の前に連れてきた。
「小さいドラゴンはここにいます。でっかい檻だと出てしまいますから」
そう言われ中に入ってみると、そこには大型犬くらいの大きさのドラゴンが三匹、別々の檻に入れられていた。
「小さい……」
一番大きいというダイドを見た後だからか、このドラゴンがとても小さく見える。まあそれでもレルチェよりははるかに大きいんだけど。
「みんな十分成熟した大人のドラゴンです。ダイドの後だとこれでも子犬に見えるんですが」
確かにレルチェに比べればがっしりとした体つきで、一匹は年老いているのか身体の色がくすんで見えた。
「このドラゴンは……」
私は年老いたドラゴンを指差して訊ねた。
「ああ、そのニムは人間で言えばもう五十歳くらいになります。この三匹の内では最年長のドラゴンですよ」
ドラゴンの寿命は、雛のうちに死んでしまうものを除けば、人間よりもはるかに長生きだ。あるドラゴンは乗り手が六代かわっても普通に飛べるほどだったとか。
「……ですが、普通のドラゴンであればこの歳でここまで弱りません」
「そうですか?私には元気そうに見えますが」
「警戒するために起きたんでしょう。ニムはこの頃よく眠るようになってきました」
ドラゴンは死ぬとき、徐々に身体が弱っていき、眠るように最後を迎える。死期が近付いてきているということだろうか。
「そうだ!レゲル様、ドラゴンに乗って飛んだことありますか?」
「……ありませんが、何か?」
「一度飛んでみては?そうですよ、飛んでみればドラゴンのことがもっとわかります!」
「ですが、私は飛行訓練はしたことがありません。無許可で飛ぶのは……」
「何をおっしゃるんですか、ドラゴンを飼うのであれば一度飛んでみるべきです」
ユアリスのあまりの熱意に、私は少し迷ったけれどうなずいた。せっかくの機会だし、どうするべきか決められるかもしれない。




