竜の雛2
カーレル様に事情を話して、午前だけでなんとか仕事を終わらせ、そのまま竜舎に向かいます。
レルチェはすでにポケットに入るサイズではなくなってしまったので鞄に入らせました。
「あっ、レゲル様。本日はどのようなご用件ですか?ホーリッツさんでしたら研究塔にいらっしゃるはずですよ」
レルチェ関連のことで結構よく来てたから、竜騎士に顔を覚えられたようだ。
「ありがとうございます」
竜騎士にお礼を言って、研究塔に足を向けました。
この前の闘技会でここに配属されたらしい新人の姿もちらほら見かける。騎士の花形と言われるだけあり、実力のありそうな新人が多い。
まあこのうちの半分以上は竜騎士の訓練の辛さに辞めてしまうんだけど。
それ相応の厳しい訓練を経て、ようやく竜騎士として人々の前に現れることができる。それでも憧れだけでここに来る新人は後を絶たないが。
ホーリッツのいる研究室の扉をノックすると、すぐに扉が開き、疲れた様子のホーリッツが顔を出した。
「おや、新人かと思いましたが、レゲル様でしたか。どうぞ、お入りください」
そう言ってホーリッツは疲れたように椅子に座った。椅子を勧められたので私もホーリッツと向かい合う形で座る。
「そろそろいらっしゃる頃だと思ってはいました」
無償髭の生えた頬をポリポリと掻きながらホーリッツは言う。
「だいぶお疲れのようですが、何かあったんですか?」
レルチェの話を切り出したいところだけど、まずはこっちも気になった。
「このところ忙しかったもので、見苦しい姿で申し訳ありません。竜騎士の新人と研究員の新人が今年はほぼ同時にやって来たので、それに合わせて管理するドラゴンも新たに増えましてね。人が足りていないんです」
「新人とはいえドラゴンの世話ができる人間が増えたのにですか?」
ホーリッツは大きくため息をついた。
「むしろいろいろ教えなければならないので、普通に世話のできる人間が忙しいんです。それで暇そうだからと我々研究員にドラゴンの世話の仕事が回ってきましてね。我々はドラゴンの管理はしますがあまり世話の方には行かないので……慣れないことをしている上にドラゴンが増えた分報告書も増えて、ろくに髭すら剃れませんよ」
うーん、どうやら一番忙しい時期に来てしまったようだ。
だからといって私も急ぎの用事だから出直す訳にもいかないし……
「ドラゴンのことでいらっしゃったんですよね。見せていただけますか?」
忙しくても忘れられてはいなかったらしい。でも世話のできる人が少ないなら預けようにも預けられないんだけど。
私はレルチェを鞄から出して、机の上に置いた。前に来たときのことを思い出すと、だいぶ……かなり大きくなっていた。
「ふむ……雛期はもう終わったようですね。そう言えば以前飛ぶようになったとおっしゃっていましたが、今でも飛びますか?」
「はい。飛び移って遊んでいることがあります」
宿舎で精霊と留守番をさせている時によくそうして遊んでいるらしい。
「大きくなってそれをされるのは困りますよね……」
「そうなんです、この前はカーテンに飛び移って遊んでいたらしく、爪でカーテンがぼろぼろになっていました。」
「レゲル様はレルチェちゃんをどれくらいの大きさにするおつもりですか?」
「……小さいままでは、レルチェのためにはよくないんですよね」
小さい、と言っても大型犬くらいの大きさだろうけど、それくらいならなんとか宿舎で飼っていける。でもそれでレルチェが幸せなのか、そう考えると決められない。
「では、一度見に行かれてはどうです?大きいドラゴンはもちろん、研究もしていますから小さいままのドラゴンもいます」
確かに一回見てみるのもいいかも。普段大きいのを遠くから見るだけだし。
「とはいえ私だけでは……少々お待ちください」
そう言ってホーリッツは部屋を出ていき、しばらくして一人の竜騎士らしき青年を引き連れて戻ってきた。
「お待たせしました。たぶんこいつが……彼が案内します」
一瞬言葉が崩れた理由は青年の台詞からすぐにわかった。
「叔父さん、理由くらい教えてくれてもいいじゃないですか。なんなんですか突然……」
無理やり連れてこられた青年はぶつぶつ言いながら私の方を見た。
「あっ!レゲル様!先に言ってくださいよ!」
青年は慌てて髪を整えたり服についたゴミを払ったりしていた。
「私の甥の……」
「ユアリスです。お会いできて光栄です!」
そしていきなり私の手を握ってブンブン振ってきました。
「えっと……」
「俺、精霊使いなんです。憧れてました!」
青年、ユアリスは目を輝かせて言う。
「ユアリスは精霊騎士から竜騎士になりました。前々からレゲル様にお会いしたいと言っていたので。案内役に適任でしょう」
へぇ、精霊騎士から竜騎士、珍しいな。精霊騎士は精霊使の資格が必要だし、竜騎士は竜騎士で大変だ。どっちかであればそれなりに優秀だろうに。
「私の代わりにレゲル様の案内を頼みたいんだが」
「ぜひやらせてください!」
全く間を開けることなくユアリスは答えた。




