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補佐官

「ああっ、もうっ!」

誰もいない部屋で私、レネッタ・ゲナルダは拳で机を叩きながら誰にも聞かれないよう悪態をついていた。

私が悪態をついているのは私の上司であり、この部屋の主、アリュ王国第二宰相カーレル・タルシューグ様に関して。

いろいろあって私は彼の補佐官になった。

宰相様の補佐官、それだけですがなにか?

聞かれてもこうとしか言えないだろうなと思う。

ただの宰相様の補佐官である私はいろいろ彼に伝言や連絡を頼まれる。

なのに、彼ときたら私が伝言等を伝えにいくと、三回に二回は不在なのだ、半分以上行ってもいないということ、それもそのほとんどが外にふらふら出て遊んでいることなのでいい加減イライラが爆発する。

前の補佐官の人は仕事のストレスで辞めてしまったと聞いたから、これが原因ではないだろうか。

それ以外にも、いろいろ怒りたくなることはある。挙げるときりがないから考えたくもないが。

『主人、探してきましょうか?』

振り向くと何体もの半透明の人形をしたモノ、精霊が口々に話しかけてきた。

気に入った人間に寄ってきて姿を現し、契約をすることで人間に力を与えるモノ、それが精霊。

なぜか私は精霊に好かれているらしく、このように何体もの精霊が寄ってきている。契約済みの精霊に混じってまだ契約していない精霊もいる。

精霊との契約は何体とでも出来るが、多すぎると力の制御ができない。ほどほどの数にしなければならないが厄介なことに一度契約してしまうともう取り消せない。

『私が……』

『我が行こう』

『私の方が……』

口々に話しかけてきた。私は力の制御は出来るが精霊達の口までは制御できない。契約した同士にしか見えないし声も聞こえないというのは有り難いがこういうときは誰にも助けを求められず、肉体的にではなく精神的にこたえる。

「いや、いい。そのうち戻ってくる。それに急ぎの用ではない」

私がそう言うと、精霊達は明らかにしょんぼりとしてしまった。精霊は契約した人間のために働くことを喜びとする変わったモノだ。契約していない人間に対しては無関心だが。

「いつものことだ……というかそこの水精霊と火精霊2体と光精霊、これ以上は無理だから他をあたってくれ」

『………』

彼らはお互いに顔を見合わせ、空気に溶けるように消えていってしまった。

去り際に寂しそうな顔をしたが、気にしていてはきりがない。気づくと彼らは私が契約した精霊達の中に混じっている。そのたびにこうして追い返すので罪悪感なんてものはとうの昔にどこかに行ってしまった。

彼らが完全に消えたのを確認したところで、ちょうどカーレル様が部屋に戻ってきた。

相変わらずのほほんとした顔をしている。しゃんとした顔をしていれば整ったいい顔立ちなのに、だらんとした表情が大減点だ。長く伸ばして後ろで括った茶髪が少し乱れている。一体何してきたんだこの人は。

カーレル様は私のややげんなりした顔を見て何事もないように言ってきた。

「おや、レゲル君、どうしました?」

カーレル様は私をレネッタではなくレゲルと呼んでいる。

理由は簡単だ。私が女ではなく男としてここで働いているから。

私の母は男運が悪いのか、何人もの男に騙されたため、私には父親違いの弟と妹が5人いる。貧乏人の子だくさんとはこのことなのだろうか。

母は6人の子供たちを養うためにせっせと働いていたが、3年前無理がたたり過労で死んでしまった。

なので一番年上の私が生活費を稼ぐために働いている。

私は精霊に好かれているので、精霊使として働き口を探すのは簡単だった。

が、女として働くのと男として働くのでは扱いがまるで違う。5人の子供たちを養うためにはお金は多い方がよい。なので私は女としていろいろ発達が悲しい体を使って男として働くことにした。長い髪を切って売り払ってしまうと、男に見えなくもない。試しに街で弟の服を着て歩き回ったら話しかけてきた人は私に向うかってボウズとかガキんちょとか声をかけてきたので大丈夫だろうと思う。

というか男ですと言う前に男として受付されたし。

このような経緯で私は男として精霊使になると、2年後すなわち去年私はカーレル様の補佐官に抜擢され今に至る。

「いやぁ、ちょっと外を歩いてたらつい話し込んじゃってねぇ。まっ、多少いなかったとこで変わらんだろう」

話し込むだけで何で髪が乱れるのだろうかと不思議だが、この人の補佐官やっていくのにそんなことはいちいち気にしていられない。

「……ウグム第三宰相様からの伝言です、白河の警備の強化の検討を早く行ってほしいと」

カーレル様は椅子に座りながら言った。

「それだけかい?」

「あとこの招待状、クラヴィッテ殿下から」

クラヴィッテ殿下はここアリュ王国の第二王子だ。聞くところによると野心家で、今の王太子を退け王位を狙っているというお方だ。

カーレル様は黙って小さな封筒を受け取ってその中身を見ながらぼそりと呟いた。

「権力者ばかり集めて何をするつもりなんでしょうねぇ……レゲル君、この招待は受けないと、殿下に伝えておいてください。あっ、拒否していると殿下に伝わればそれで十分です」

王族の招待をこうもあっさり断るのはどうかと思う。それも本人が伝えるのではなく私が伝えることになるのだから、殿下に断りを入れる私の身になってほしい。いくらカーレル様が宰相だからといって王族の招待を用もないのに断るのは無礼にあたる。

「……自分で言わないんですか?」

「招待を受けた私が直に殿下に断りを入れたら殿下に何と言われるか、考えただけでもめんど……」

今めんどくさいって言おうとしましたよね、私だってめんどくさいのは嫌ですよ!

「その点、君は招待を受けた張本人ではないから断りやすいでしょう。伝えるだけ伝えてすぐその場を去れば殿下も何も言わないでしょうし」

それは伝えるだけ伝えて逃げればいいと言っているのでしょうか、殿下が何か言う前にいなくなればいいと。

「招待を断るよりそっちの方が無礼では?」

「殿下は君に何かぐだぐだ言ったところで何もないことはご存知ですし君が丁重に伝えてくれれば無礼にはならない。それに行く行かないは個人の自由」

「……わかりました、伝えるだけ伝えてとっととその場を離れろということですね?」

「そういうことだね。いやぁ、理解が早くて助かるよ」

「では私は殿下に伝えるだけ伝えて、それから騎士団の視察に向かいます」

私はそう言いながら部屋の隅の私の机から昨日の夜に用意しておいた視察の用意を取り出した。

「よろしく頼むよ」

カーレル様の声を聞きながら私は一礼して部屋を出た。


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