男装王女 ロココの部屋で目を覚ます
1948年3月25日明朝
「金壁輝、時間だ。」
北京の監獄の扉が開かれる。中にいたのは短髪に獄衣の女性だ。質素な獄衣を着ていても彼女の表情にはどこかキリッとした気品がみえる。
「愛新覚羅顕シ王女、立て。」
彼女は立ち上がる両腕を憲兵に拘束される。
彼女は名前が3つある。金壁輝、愛新覚羅顕シ、そして川島芳子。中国大陸を長きに渡って治めてきた清の王女として産まれるも彼女が産まれてすぐ王朝は滅亡。6才の時に父の親友である日本人川島浪速の養女になった。芳子は養父からもらった名前だ。実の父が願った王朝復活の夢を叶えるために女を捨て男として日本軍に身を置いた。日本軍が協力すれば清王朝復活は約束すると。
日本軍は五族協和、王道楽土をスローガンにした満州国を建国。芳子の従兄弟愛新覚羅溥儀が即位した。父の夢、一族の夢王朝復活は叶ったかのように見えた。しかしそこにあったのは王朝復活でも五族協和でもなかった。満州国は日本軍が他のアジア民族を虐げるために作った偶像国家であった。
1945年。日本は敗戦。大陸から徹底し満州国は崩壊。王朝復活の夢は破れた。それどころか日本軍に協力した裏切り者として捕らえられて牢屋に入れられてしまった。芳子は自分の人生を振り返る。思えば男に利用されるだけの人生だった。養父、軍の上官、都合の良いときだけ清王朝の王女だと持て囃して要らなくなったらゴミクズ扱い。
裁判では自分の主張は認めらなかった。弁護士は着いたものの自分の味方をしてくれる証人は1人もいなかった。検察も裁判官も傍聴人も自分を軽蔑するような目で見ていた。
しかし今となってはそんな事はどうでもいい。日本人からは邪魔者扱い中国人からは裏切り者扱い、自分を必要としてる人等いない。たった1人を除いては。
「金壁輝、 壁の前に立て」
気がつくと刑場に着いていた。芳子は言われた通り刑場の壁の前に立つ。執行人が目隠しをするが芳子は全力で拒む。最期は国を裏切った売国奴としてよりかつてこの国を統治した王朝の王女として全うしたい。
「最後に何か言い残す事はないか?」
「家 あれども帰り得ず
涙 あれども語り得ず
法 あれども正しきを得ず
冤 あれども誰にか訴えん」
芳子が辞世の句を詠み終えると執行人が銃を放つ。その時太陽が昇り始め日の光が芳子の視界を包む。
(眩しい)
それでも芳子は銃弾を見つめる。
「お父様、お母様、今そちらに行きます。」
芳子は実の両親は彼女が17才の時に他界した。銃声が響き渡ると共に彼女は倒れ込む。これで両親に会える。
はずだったが。
「ここはどこだ?」
芳子は目を開けるとそこは天蓋付きのベッドの上だった。辺りを見渡すと部屋は一面ピンクの壁紙だらけで壁には中世ヨーロッパ風のドレスがかかっている。机には本が何冊か、ドレスを着てティアラを付けたうさぎのぬいぐるみが飾られている。
(お母様天国で西洋趣味にでも目覚めたのか?)
そんな事を考えていると部屋に2人の女の子が入って来た。黒髪で2人ともセーラー服を来ている。
(日本の女学生か?)
1人はふたつ縛り、もう1人は巻いた黒髪にピンクのリボンを付けている。
「あ、目が覚めました?大丈夫ですか?」
ピンクのリボンの少女が芳子に尋ねる。




