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トップアイドルへの道。

平成の時代、世間を騒がした豚と魚というアイドルはご存じですか。

この二人は兄弟アイドル。純粋な気持ちをもって足を踏み入れた二人の兄弟が

トップアイドルになるまでの暗くて眩しい物語・・。

僕は“豚と魚”と言うグループで地下アイドルをしている。


僕の芸名は豚。


その名の通り昔太っていたことから弟の陸からそう言われていたことからついた名だ。

本名は、飯田夢でメンバーは私と弟の魚こと陸と二人で細々とアイドルをやっている。


陸の魚という名も小さいころからエラがはっていたから僕と妹が呼んでいたことが始まりである。なんとストレートないじめのようなあだ名である。


アイドルのコンセプトとして、豚と魚、つまり哺乳類と魚類という少し面白要素が入っている点では魅力があるのだろうか。

ちなみにお互い性別を明かしてない中性的でミステリアスなキャラでやっている。

事務所にも入っていないため、定期的に路上ライブをしたりお店に頼み込んでパフォーマンスをさせてもらっていた。

衣装は僕の仕事で全て手作りで、曲の作詞は僕、作曲が魚である。


こんな状況でも結成して1年、ライブハウスのハコを埋められるほどになった。その暁に毎日歌とダンスのレッスンでは講師をつけられるようになってよりハードに活動している。兄弟のためぶつかることも多々あるけれどもなんでも言い合える仲でもある。別に兄弟仲は悪くないだろうと思ってる。


「マネージャーまだ?」


今日は山梨県にあるとあるハンバーグが有名なおしゃれなお店でパフォーマンスを披露する予定だ。東京に住んでいるため地方遠征では車の免許を持っている妹のひなが送り迎えをしてくれる。


「マネージャーじゃないわ。私は立派な教師よ!あんたたちと違ってちゃんと就職してるんだから!」

「ぐさっ!」僕と陸は胸を抑える。


「夢姉ちゃんはもう25歳でしょ?周りの子たちは就職してるのに。まあ親不孝なこと。」


ひなはいつも痛い所をついてくる。確かに25になってまで働かずにアイドルやっていることに両親は呆れていた。

三兄弟の中で嫌味がうまいのがひなだと思っている


「俺たち一年後にはビックになってテレビ出まくって、ドームに立つ予定なんで。」陸は18歳の高校生のくせして負けずとビックマウスである。僕も少し見習いたい。


「なに?」ひなが少し怒っているのが分かる。この流れの会話をしたのは何回目だろうか。確か、五回目くらい・・だった、ことにしておこう。


「まあ、有名になったら俺たちの方が親孝行できるようになると思う。」ふふっと陸は鼻で笑う。


「あ!じゃあひなもマネージャーなっちゃえば?兄弟三人仲良く目指そうぜ!」

お調子者担当の僕がそう言うと


「もう。二人とも事務所入ってから言いなさい。」

とひなはあきれていた。


「そういえば今日は、ワールドボーイズが山梨でライブするらしいわよ。」

ワールドボーイズは大手芸能事務所の五人組男性アイドルで、テレビには引っ張りだこである。地下アイドルの僕たちは無縁であると言ってもいい。


「フーン。」


僕と陸は興味がないように適当に返事をする。あの方々は僕たちと違って入所してからネームバリューのおかげもありメディアに乗り放題だ。少しムカつくけど憧れをもっているのは確かだ。


「フーン、じゃないわよ。」ひなはため息をついた。

でも分かっている。事務所が大手だろうが無所属だろうが、もっとハングリー精神を持たなければアイドルとして生き残れない。ファンが少しふえたからってそこで終わりではない。むしろ始まりなんだ。最近そう思うようになった。だから僕たちは今日も地方に足を運ぶのだ。少しでも有名になれるように。




店についたのは午後四時であった。店の名前はハングリーライスという。意味の分からない英単語がつらなっている店名だ。

僕と陸はスーツケースを転がしながら店に入る。見てくれるお客さんもそうであるが、お店の人たちにも好印象を残すことは活動していく上で意識しなければいけないことだ。僕と陸は真っ先に店長のもとに行く。


「本日、パフォーマンスをさせていただく予定の豚と魚です。三崎店長、並びに従業員の皆様、今日はよろしくお願いします。」

大きな声ではきはきと高校の運動部のような熱の入った挨拶をして頭を下げた。


「はい。こちらこそよろしくお願いします。」三崎店長は穏やかにほほ笑んだ。

毎回、やっているのにこの瞬間は個人的にドキドキする。


「ステージといっても狭いですが、ご案内します。」三崎店長はそう言ってステージに案内してくれた。ステージと言っても二人で踊るのにピッタリの大きさである。隣にはピアノがおいてある。普段はジャズを披露しているみたいでアイドルは初めてであるらしい。


「確認しました。ありがとうございます。」

僕はそう言ってまたお辞儀をした。


「君達、兄弟なんだよね?男の子ふたりでアイドルをやってるとぶっちゃけ取っ組み合いの喧嘩とかするの?」


“男の子ふたり”

やっぱり僕は男の子に見られるのだな。それはそうである。

髪もショートだしメイクも骨格がくっきりするようにシャドウも入れている。周りには童顔のちょっと身長が低い青年に見えているはずだ。これはファンからもそう認知されているのもわかる。つまり僕は中性的だけどやや男性に見えるのだろう。でも今更女など周りの人に口が裂けても言えない。だって“中性的でミステリアス”の売りが壊れてしまうから。


だからこのていの質問をされてもお互いご想像にお任せしますって感じでやり過ごす。



「いえ。口喧嘩はしょっちゅうですけど。」


陸は愛想良く笑った。


「そうですか。私も姉とは毎日大喧嘩していましたよ。懐かしい。今日は頑張ってくださいね。」そういって三崎店長はさっていった。終始素っ気ない態度で接してくる店長もいる中で温かく迎え入れてくれたみたいだ。正直なところこういう現場ではやりやすい。僕たちは簡易的に用意してくれた楽屋に入りメイクや着替えの準備を進めた。


僕は百均で購入した大きめの鏡を机に置いた。ベースメイクはしてきたので瞼に黒系のアイシャドウ、鼻筋にはシャドウをいれつけまつげを装着する。そしてチークを普段よりも濃く入れ少し暗めのリップを塗って完成。後は髪を少しうねらせながらセットして完璧。その姿からは女の子なことは感じさせない完璧な装いである。

「よし。」僕は低い声でそう言った。小さいころから男声が出せる僕。周りの大人たちは心配して病院につれていったらしいが、特に異常はなく「これはこの子の個性ですよ」とやぶ医者か知らないが言われたそう。でも今となってはとっても便利な声であると思っている。だから舞台上でも一体感を出すため男声であるし、勿論歌も男声を利用していた。


「本番5分前。」ひなの声がした。

「はーい。」「ほい。」僕と陸は返事をしながら振り向いた。


「え、」

僕は一瞬固まった。


「アハハ!」

陸は目に入った時にはもう笑っている。


そこにはスーツ姿でいるひながいた。

「何その恰好。」一応ひなに会話を振ってみる。

「見ればわかるでしょ?あなたたちのマネージャ!かっこ今日限り。」

あんなに毎回僕たちに嫌味を言っていたのに。どんな風の吹きまわりだろう。なんか怖い。

「まあ、その気になってくれたらいいけど。」陸はにやりと笑う。僕は高校生は純粋でいいなと思う。

僕の見立てから、ひなは今やけにテンションが高い。興奮しているのが僕にもわかる。

こういう時のひなはいつも何かを隠している。

「何かあったの?」僕が客席を覗こうとすると「いいの!」といって急いで道をふさぎ通せんぼした。

「あんたたちは何も考えずに頑張って!」そう言ってガッツポーズをして店長のもとに行ってしまった。

「豚。今日もしくじんなよ。」

「そっちこそ、魚くん。」

この言葉が僕たちのエンジンみたいなものである。

“今日もお客様を幸せにするぞ!”そう僕は気を引き締めた。





会場は真っ暗になった。周りの客たちがざわざわしだす。

きっと今日来てくれている人たちは遠方だからもしかしたら僕たちのファンは0に等しいかもしれない。だけれどこれはチャンスでもあるのだ。

ゆっくりとしたピアノの優しい音色が鳴り響く。僕が作曲した“ レディー・ジェーン・グレイ”である。

一つ一つの音がまるで僕たちだけの世界観を作りだす。そこにレースの傘をくるくると回しながら二人が舞台現れた。ひらひらとしたフリルがたくさんついた衣装をなびかせながら僕たちは蝶の様に舞う。そしてガタっという音と共に傘を捨てひざまずいた。

僕たちが作る世界に観客たちも誘う。ざわついていた観客も息をのむほどに僕たちに見入っているのが分かる。

「今日だけは一緒に踊りましょ?」静まり返った会場にその声だけが取り残された。


「ラッタ・ラッタ タッタ・タッタ ラッタ・ラッタ タッタ・タッタター」

ひざまずきながら豚と魚はこの呪文をか細い声から強い声で二人見つめ合う。

緊張感が漂う。


いきなりライトが会場中を明るくなる

♪ピラン ジャカジャカジャカ

ミステリアスな雰囲気から一変し激しいピアノとギターの音が会場を盛り上げた。



「♪キミの知らない世界、さあおいで」

豚と魚が手を広げ歌いだすと会場がワーッと盛り上がった。

キレッキレなダンスとアイドルスマイルを欠かさずに豚と魚は今日も自分たちの個性を出していく。アイドルだけれどどこかミステリアスなハーモニーを会場に振りまく。

これが豚と魚の個性。僕らのパフォーマンスを一人ひとりの胸に刻んでやるんだ。


「ふん。今日もいい感じじゃない。」舞台袖から見ていたひなは端っこの客に目を向ける。その客たちは舞台から目をそらさず、じっと見ている。その様子を見て“デュフフフ”と変な笑い方をして満面の笑みを浮かべた。


ライブも終盤になった。最後の曲は、豚と魚のデビュー曲「マリー・アントゥワネット」。この曲は作るのに約一年かかった。けれどそれなりのクオリティでもあり豚と魚を象徴する一曲だ。

「すべての民衆は 私に従うべき 私の命は絶対 ほらおやつをちょうだい?」

これはマリー・アントワネットの悲劇を歌った曲である。

会場はさっきの盛り上がりから一変静かに僕たちに目を向けた。

ゆったりと悲しみがにじみ出る歌声、舞うようなダンス。

そして曲の終盤の間奏で僕たちは舞台の上で倒れる。

“♪ピロリロン”ピアノが静かに最後の音を奏でた後、舞台は真っ暗になった。

これで豚と魚のライブは終わりを告げる。会場からは大きな拍手が鳴り響いた。


楽屋に戻ると「お疲れ様っす。」「お疲れ。」といって陸と僕はハイタッチする。

「まっ、かましたよね」

「そうだね。でももっと上に行かないとね。」

僕は今に満足したいわけではない。それは陸も同じだろう。

「ああ。」と首を縦に振る。

「じゃあ五分後反省会ね。」「了解。」

そう言って着替えようとすると


すると


「すいません。」


とカーテンを開けた。

どこかで聞いたことのある声だ。振り向くとワールドボーイズのリーダー星宮英二がいる。

「ほ、星宮英二?!」僕は大きな声でとにかく驚く。驚いているのもつかの間「失礼します。」とあとの二人楽屋にすたすたと入ってきた。山野一?!池田裕也?!


え。待って、超イケメン、めちゃくちゃいいにおいする。

今何が起きているのか頭真っ白である。


「何の用ですか?」動揺する僕とは裏腹に陸は足を組んで偉そうだ。

もう少し敬意を持たないか!と僕は心の中で突っ込む。

まあ、陸の有名事務所所属アイドルが嫌いなのは知っている。

星宮は山野と池田に目配せをして


「君達のパフォーマンスを見せてもらいました。ぜひワールドボーイズの新メンバーになってもらえませんでしょうか!」といって全力で僕たちに頭を下げてきた。

「えーーーー!やめてください。頭下げるなんて!!!」僕はさすがに三人の頭をあげさせた。どういう風の吹き回しなのか?本当に理解が追い付かない。


反対に緊張感のかけらもない陸は


「どうして俺たちなの?後輩とか最近話題のオーディション番組とかいろいろやりようはあるだろうに。」

と鋭い質問をした。


「今日まで豚と魚のことは知らなかった。でもそんな初見の俺たちにも届くような世界観、声、歌詞、演出。俺らに足りないところが全てそろってた。何より、君達二人の作り出す世界が胸を打たれた。」普段テレビで少し怖そうな感じがする山野一に言われて勝手に心が弾む。


「俺たち話し合って君たちをぜひ仲間に入れたいと思った。もっと売れるために、世界にいけるように!宇宙にも行けるように!」


宇宙?池田裕也ってしっかりしているようで、ふわふわしているキャラなのか?とトップアイドルらしからぬ発言で意外であるなと思った。



が、三人は本気のようだ。



「他の二人は?」

僕は三人に聞くと

「やめる。二人とも今月で。」

「え?」初耳である。

「埋め合わせってわけですか。」「陸!」

とんがった言い方をする陸に注意を入れた。



「本当に僕たちでいいんですか?」僕は確認する。「うん。二人とも来て欲しい。」

「俺たちは中性的なキャラで売ってるんだけれどそれでよければ。ね?」陸はさっきの強気を捨て素直になった。ただ褒められたからなのかだから思春期の心ってやつは分からない。

それにこの確認は、戸籍上女子の僕を仲間に入れていいのかと言う少し意地悪な聞き方である。

「うん。」僕もそういう。性別なんて関係ない。本気でトップになるためにはこの船に乗るしかない。

「いいよ。ね?」と星宮はメンバーに確認する。二人とも「うん。」とうなずく。


こんなにすんなり決まっていいものなのか本当に心配であったが

「よっしゃ!これからよろしくお願いしますね。」といって陸は乗り気になった。

僕はこの三人を騙したような気分になったけれど「お願いします。」と言って頭を下げてしまう。夢への欲には負けてしまう僕であったが、精一杯やって行こうと心に誓った。


でもこれが僕たちのアイドル人生の地獄の始まりだったことはこの時僕は何も考えもしなかった。



ご覧いただきありがとうございます。

これからだんだんと更新していきたいと考えています。

ぜひ物語をお楽しみください。


次回、豚と魚の狂い始めたアイドル人生開幕!

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