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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
グラータ訪問

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黒い創薬師

黒い創薬師

 魔物討伐の数日前、かなり久々にヘナン師匠が稽古をつけに来てくれた。

 実戦訓練以来の再会で、あたしは結構舞い上がった。

「お久しぶりです、師匠!」

 声量に目を瞬かせた師匠は、

「相変わらず元気だな……」

 ボソッと呟いた。

 

 ザンバラ髪で顔が見えにくいが、稽古を長く続けているせいか、なんとなく面持ちを察せれるようになった。今は軽く驚いている。

 

「はい。ヘナン師匠もお変わりなさそうで」

「ああ」

「今日は稽古ですか?」

「うむ。実戦訓練で見つけたヒカリのクセを直しておこうと思ってな」

「ありがとうございます」

「もう体はいいのか」

「はい」

「ならば始めるか」

 

 あたしは剣を取りに行き、庭に出て早速指導を受けようとしたけど、ヘナン師匠の上司、グスタフのことが頭をよぎった。

 当然、あの以降は一度も顔を合わせていない。接触を減らして欲しいと頼んだから、今後も会う機会はほとんどないだろう。一度話しあってもいいのかもしれないけど……ラディウスは賛成しないだろうな。

 

「あの、師匠……。グスタフさんはお元気ですか?」

 顔色を窺いながら尋ねると、

「ああ」

「仕事も続けてるんですよね?」

「ああ」

 

 どうやら変わらず現場で働いているらしい。

 謹慎処分だけで済んだのは本当なんだ……。

 降格とか隊長から降ろされるとか、そういったことはなかったんだ、と安心した。

 

「なら良かったです」

 師匠は表情は変えず僅かに眉を動かすと、

「あの人のことを気にかけるのか?」

 珍しく師匠から質問された。

「自身を傷つけた相手のことを案じるのか」

「……それは、まぁ」

 

 ヘナン師匠は言葉の続きを待つように、手を止めたまま動かなかった。

 だって、仮にもラディウスやヘルムートが信頼している人だ。そんな人との関係性が崩れるのは本望じゃなかった。

 あたしは正直な気持ちを打ち明ける。

 

「ラディウス達が信用してる人です。完全に悪い人とは思えません……。それに、あたしはグスタフさんを嫌ってはいません。でも相手が快く思っていないなら、無理に会おうとは思わない……。不愉快な思いはして欲しくないので。もしあたしに非があって、そこを直すことで改善するなら努力したいですけど……」

「恨んではいない、と?」

「恨むまではしません。会うのは怖い、と思いますけど……」

「そうか」

 ヘナン師匠はグスタフについてそれ以上何も言わず、

「始めるぞ。構えろ」

 訓練を始めた。


 

 剣の稽古は数時間続いた。重心が右寄りになることが多いから、体の中心を意識しろ、と教わる。

「もっと体幹を鍛えろ。実戦用の剣も準備してもらえ。いつまでも訓練用では、癖が抜けないぞ」

「はい。ヘルムートさんに伝えておきます」


 

 日が傾き、山の奥に消える頃になってようやく稽古は終わった。

「今度の魔物討伐、ヘナン師匠も参加されるんですか?」

「ああ」

「あたしも行くんです。討伐目的じゃないけど参加するので、もし見かけたら声をかけてくださいね」

「剣で挑むのか?」

「いえ、弓部隊です」

「自分は武装部隊だ。接触はしないだろう」

「そうですか……。残念」

「怪我には注意しろ」

「はい」


 実戦用の剣が届いたら、体幹を意識して素振りしよう。あとは足さばき。もっと滑らせるように動かそう。

 

 たっぷりと汗をかいたので、この日はあっという間に寝てしまった。

    

            ◆


 討伐当日、朝早くにヘルムートが家にやってきた。

「本日はこれを着用して下さい」

 渡されたのは服と胸当て、腰までの長さの外套、髪留め。

「髪留めまであるんですか?」

 バレッタのような楕円形の髪留めは綺麗なピンクゴールドで、こちらでは見かけない素材だった。

「それは魔道具です。髪色を変える魔法付与がされています」

「髪色?」

「ヒカリの髪色は目立ちますから。黒髪は異世界人、しかもヒカリとバレる可能性が高い。今回は薬効を見るという目的がありますから、出来るだけ正体をばらさずに動いてい下さいね」

「どういうことですか?」

 外見と薬効調査になんの関連があるのか、全く結びつかなかった。

「自覚は薄いでしょうが、非魔法薬の開発者としてあなたは有名です。ヒカリが新しい薬を作っていると知れると、実験台にされるんじゃないかと怯える兵士が多いのです」

 

 なにそれ?!

 実験台?

 

「あたし、そんな実験なんてしてませんよ?!」

「前回の塗り薬の時、時々訓練所を覗いていたでしょう?その時の様子が様々な噂で広がったのです」

 

 覗いてたのは効果が気になったからで……。

 そんなに頻回に見に行ったわけじゃないのにな。

 それにしても様々な噂って……?

 

「そこまでは良かったのですが、その後、ラディウス様のお屋敷の一部を木っ端微塵にする騒動があったので、噂の内容がかなり変わりました。恐ろしさが加わり、遠慮なく怪我をさせられるだの、いつも実験台を探しているだの、部屋で怪しげな実験をしているだの……。鍋を回してニヤついている絵を想像する者が多いらしいです」

「なっ、なんですかそれ?完全におとぎ話に出てくる悪い魔女じゃないですか!」

「魔女?」

 

 言われもないイメージがついている。ひどい!

 もしかして、あの頃お屋敷の皆さんがあたしを見てビクついてたのはこの噂のせいなの?!

 てっきりラディウスとやりあったせいかと思ってたのに!

 それにしても鍋を回してるって……。

 薬作りに鍋使わないよ!

 

「あたし一回もお屋敷でそんなことしてません!」

「我々は知っていますが、ヒカリの噂しか聞いたことがない者は、既にそういった印象をもっています。ですから、黒髪は隠して下さい」

 

 あんまりだ……。

 写真も動画もない世界だと、噂話か絵しか伝達方法はない。

 アナログな手段のいけないところが出ている……。

 

「うぅ……。そのイメージって払拭できないんですか?」

「どうでしょう?このまま医療体制確立を成せる事ができれば、噂は上書きされるかもしれませんが」

 

 情報のアップデートが必要というわけか……。

 

「名誉挽回のため頑張ります……」

「ええ、是非そうして下さい」



 出発前からテンションが下がり、あたしはエッダと同じ魔獣車に乗り込む頃になっても元気がなかった。

「どうしたんだ?随分と暗い顔をしてるが」

 出会って早々、エッダから心配された。かなり分かりやすく落ち込んでいたらしい。

「やっぱり行きたくないんじゃないか」

「違うよ……。ヘルムートさんから嫌なこと聞いて……」

「嫌なこと?」


 車内で噂話の事を教えると、「ああ、その噂か」とエッダも知っていた。

「知ってるの?!」

「ああ、有名だからな」

「有名なのぉ……」

 がっくりと項垂れるあたしを見て、

「そんなに落ち込むのか?」

「根も葉もない噂されたら落ち込むよ!」

「それだけヒカリが注目を浴びてるってことだろう?」

「それは……そうかもしれないけど――」

「人の噂なんてすぐに変わる。気に病むだけ時間の無駄、損だぞ」

 エッダは達観たような落ち着いた顔で言った。さすが長生きしているだけあって、こんな事では動じないらしい。姉御だな。

「はい、エッダ姉さん……」

「だれが姉だ」

 

 

 現地に到着すると、弓部隊の隊長の顔になったエッダは、

「ヒカリはできるだけ後方にいろ。何かあれば風を送れ。怪我人が出ればオレも知らせる」

 部下たちの指揮をとるため、先頭へ行ってしまった。


 

 知り合いがいなくなると、周りは知らない人ばかり。弓部隊に人間はほぼおらず、エルフ、獣人、翼人ばかり。みんな各自の準備に忙しく、あたしのことを気にもとめない。

 

 あたしは今日の仕事場となる森を見渡した。 

 前回の訓練した森とは異なり、今回はそれほど木々が密集していない。比較的遠くまで見えて、弓が使いやすそうだ。

 既に肌寒くなってきた秋口とあって、木々は色づき紅葉していた。地面に落ちた葉が綺麗で、遠くの山の天辺は薄っすらと白い。雪が積もっているらしい。

 ソルセリルは雪も降るんだ……。王都も雪化粧するのかな……。

 こんな状況でなければゆっくり見て回りたいくらいの景色。

 でも周りを見れば皆、顔を引き締めて森に踏み入っている。

 あたしも呑気に魅入ってる場合じゃないよね……。

 

「さぁ、気を引き締めないと」

 装備を確認すると、あたしも森に入った。


 


 魔獣は思ったよりも多く、弓部隊の皆さんは3人一組の円形となり、連携して挑んでいた。

 3メートルはある大型魔獣から、ウサギほどの大きさの魔獣、ネズミサイズが50匹など、初めて見る魔獣も多くいた。

 あたしは邪魔にならないよう、出来るだけ後方を歩いた。時々弓を射ることがあったけど、怪我をすることなく進んでいた。


  

 肝心の薬はというと、かなり活躍した。

 鎮痛剤は一番活躍頻度があり、重宝した。

 深くない傷なら鎮痛剤を飲んでもらった後、空間浄化魔法で清潔区域を作り、生成した水で洗浄、初級ポーションで治療、という流れ。

 

 骨が見える程腕がえぐれた人の治療もした。止血して心臓より高く腕を上げ、麻酔を患部にかけた後、空間浄化魔法を展開。滅菌水で洗浄して異物や石が残ってないか確認してから上級ポーションで治療。

「あ、ありがとう……」

 あっという間に傷が治り、兵士は驚いていた。

 まじまじと顔を覗かれたけど、正体がバレることはなく、

「あんた見かけない顔だけど、回復魔法師なのか?」

 あまりにも手際よく治療したから、怪我人からそう尋ねられた。

 まだ青い顔をしてるから、あんまり喋らない方がいいけどな……。

「珍しい魔法を使ってたな……。治療方法を変えたのか?」

「いえ、そういうわけでは……。今、色々と試していることろです」

「あぁ、黒い創薬師がまた何かやってるのか……」

「黒い創薬師……?」

 なにそれ?

 きょとんとして聞き返すと、怪我人は目を見開いて「あんた知らないのか?」と驚いていた。

「異世界人の黒目黒髪の女性だよ。外見からそう呼ばれてる」

 あ、あたしのこと?!

「日夜色々と薬を創っているらしい……。一から創造してるなんて……凄い能力だよな」

 

 一から創ってるわけないでしょ?既存の物を取り入れてるだけですよ。

 それに日夜研究もしてません!

 鍋をぐるぐる回してもいません!

 

 そう伝えられたらいいのに……。 

 せっかくの変装が意味をなくすから、あたしは、

「あの、痛みの方はどうですか?」

「だいぶ良くなった。まだ指先がしびれているが……」

「そうですか」

 手元のメモに『麻酔の効果発現まで数分以内。男性30代。開放創を上級ポーションで治癒。治癒後に指先に痺れあり』と書き留める。

「しばらくここで安静にしていて下さい。痺れはすぐにとれてきますから」

 言い残して次の患者を診に行った。

 

 それにしても黒い創薬師か……。

 ヘルムートとエッダの言ってた噂って本当だったんだ……。二つ名があるのは知らなかったけど。

 騎士や兵士と話す機会はこれまでなかったから、噂自体も知らなかったし。もっとコミュニケーションをとって印象を変えたいけど……。話しかけても怖がられるだけなのかな。

 悲しい……。


 そんな気持ちを抱えながら、あたしは患者の手当てを続けた。

 だいたい50人程で薬を試す事が出来た。薬効の発現時間、持続時間、副作用などデータも集まり、種族も獣人、エルフ、翼人を治療した。

 屋外での治療経験もできたし、空間浄化魔法も試すことができた。かなりの収穫と経験を得られた。

 

 そういえば、鬼人っていないな……。見た目はほぼ人だから、わかりやすいと思うけど。もしかしてかなり少数なのかな?妖精も未だに見たことないし。

 ヘルムートに一度聞いてもいいかしれない。

 

読んでいただきありがとうございます!とても励みになっています。

誤字・脱字報告もありがとうございます。助かっております。

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