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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
アザルス王国編

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3/9

ラターナ村



 左右を騎士に挟まれ、あたしは王宮をあとにした。王宮内を歩くと、周りの人からは酷く冷ややかな目で見られた。

 こんなにも早くあたしの力が広まってるのかな?

 

 魔力がある者を殺す力。

 

 それがどんなものか、想像に難くない。効果範囲や同時に何人殺せるのかは不明だが、人を殺せる力に違いない。

 だからこんなにも注目されて睨まれるのだろうか……。

 自分で選んだ力じゃないのに……。


 王宮を出ると広い庭を歩いて、城壁を越えたら街に出た。

 王都は活気がなく、鬱々とした場所だった。人々は表情暗くそそくさと歩き、誰も談笑していない。

 それどころか、あたしを見て動きを止め、あからさまに嫌な顔をしたりため息をついている。

 なんでこんなにも嫌な顔をされるんだろう……。

 流石に国民達にあたしの力が広まるのは早すぎる気がした。魔法で情報が拡散されたのならわかるが、そんな音も声もしなかった。それとも、もっと他の手段があるのだろうか?

 あたしは王都の人たちの視線を避けるように街を観察した。

 噴水はあるが水は出ておらず、枯れた落ち葉で埋め尽くされている。露店はあるが品物は数えるほどしかなく、客はいない。

 石畳の地面は割れ、風に乗って悪臭がした。下水のような匂いで、あたしは思わず顔をしかめた。

 これが王都……。

 どう見ても国の中心部とは言えない。


 

 王都をしばらく歩き、崩れるんじゃないかというほどボロボロな石橋を渡ると、むき出しの地面の道に変わる。

 王都から森に抜ける道が1本続いているが、そのメイン通りのすぐ横に、あからさまに目立つ場所があった。

 3メートルはあろうかという高い木の壁に囲まれた場所で、門の前には詰所がある。

 騎士はそこに入ると声をかける。中から鎧と言うにはみすぼらしい防具をつけた中年男性が出てきた。

 やはり王宮勤めの騎士と比較すると、鎧だけでなく背格好も全然違う。中年男性は年齢の割には痩せていて顔色も悪い。とてもじゃないが、衛兵に向いていない。日本の高校生の方が適任なのではと思うほど、貧相な体つきだった。食べる物が違うのだろうか。

 騎士は威厳ある声で、

「新しい住人だ。1区だ」

 指示すると、中年男性は何も言わず門に向かった。

 異様に大きなかんぬきを外すと、扉が重い音をたてて開く。

 騎士達の付き添いはここまでで、無言で中に入るよう促された。

 あたしは村の中に足を踏み入れる。


  

 日本昔話に出てくるような村。そう言えば分かりやすいと思う。

 木製の平屋が幾つも並ぶ。簡易的にしか作られていない家で、台風がきたら絶対に雨漏りするし、冬は外と変わらないくらい寒いだろうと容易に想像できた。

 井戸の周りには女性が幾人かいて、野菜を洗っている。その横で子供が3人かけっこをしてはしゃぎ、男性が2人談笑している。

 王都よりは雰囲気がいい。それに少しホッとした。

 そして何よりあたしを安堵させたのは、誰も睨んでこないことだった。あたしに気がついても冷たい視線を向けてこない。

 良かった……。ここに住めるなら安心かも……。

 先程までの空気の中で生活しろと言われたら、流石に安眠できそうにない。それほどまでに殺伐とした空間だった。

 あたしの力が恐ろしいから、あんなにも睨まれたのかな……。

 殺す力を持っていることは仕方ないにしても、あたしは使うつもりがない。それを理解してもらえれば改善されるのだろうか……。

 

 人々の態度も気になったが、なにより、この国、この世界についてもっと説明が欲しかった。

 ここに来て僅か数時間だが、ろくな説明がない。今までの待遇を振り返っても、あまりな扱いだ。帰還できない人間を勝手に召喚しておきながら、詫びもない。それどころか国のために働いて当然という雰囲気だ。

 おまけにこの国は魔族との戦争を控えているらしい。王族の横柄な態度といい贅沢三昧の生活といい、この国はろくなものではない。きっと戦争に勝っても、良くない方向に進むだけだろう。ならば、負けてしまった方がいいはずだ。

 そうなれば、あたしが前線に出る必要も感じない。国費を投入して召喚された身だから参戦は義務なのかもしれないが、あたしには関係ないことだ。思い入れもなく親しい人もいない国。そんなもののために命を張りたくない。

 情報が集まったらすぐにでもこの国を出たい。なんとか道を見つけて抜け出して、隣国にでも逃げたほうがいいだろう。

 

 悶々と自身の身の振り方を考えていると、

「よろしいですかな?」

 話しかけられた。

 いつの間にか、目の前には男性が立っていた。

 50代後くらいに見えるその人は見るからに優しそうな雰囲気で、目を細めてあたしを見ていた。

「新しく召喚された方と伺っていますが、間違いありませんか?」

「はい。井瀬光凛と言います」

「お名前からして、日本の方ですか?」

「はい、そうです」

「私はアメリカ人のロイドと申します。このラターナ村の村長をしています」

「ラターナ村……」

「少々長い話を聞いてもらわなくてはいけません。このまま私の家に来ていただけますか?この世界と国について説明しましょう」




 あたしはロイドさんの家にお邪魔した。奥さんだというミシェルさんが挨拶をしてくれ、温かいお茶を入れてくれる。

「色々と大変だったでしょう?王宮の人達は親切とは言えないから……」

 そう言われ、あたしは心からジーンとした。

 この世界に来て初めての温かい言葉に胸打たれ、泣きそうになった。

「ここには地球人しか住んでいないから、少し肩の力を抜いてください。全員がヒカリと同じ境遇です。皆さん召喚直後はパニックになりますから、気張らなくていいですよ。日本人の方とお会いしたければ、あとで紹介します。同年代の女性の方も何人もいますから、沢山お話すれば少しは気も晴れるでしょう」

「ありがとうございます」

 会って10分ほどしか経っていない人間に対して、ここまで気を使ってくれるのは本当に嬉しかった。その温かさと夫婦の親身な言葉が心に滲みた。

「良かった……。やっと話ができる人に会えて……。安心しました」

「みなさんそう言われます。召喚者は国の人達からろくな扱いをされませんから、ここが唯一の安息の地なんです」

 やはりそうなのか。

 つまり外に出たら常にあの視線に耐えなくてはいけない、ということだ。

「村の外に出たら、常にあんな感じですか?」

「はい。王宮勤めの者だけではありません。住民からの視線も態度も似たようなものです。それでも仕事には行かなくてはいけませんが……」 

 仕事自体はそこまで嫌じゃないと思っていた。国民の皆さんは召喚に関係ないし、あの王族達に虐げられていると思えば同情もできる。しかしあの空気に耐えて仕事をするのは憂鬱すぎる。

「やっぱり仕事はしなきゃいけないんですね……」

「気が重いでしょうが、そこは諦めてください」

「この村の中で働く事はできないんですか?」

「無理です。少なくとも王都に出なくてはいけません」

「…………そうですか」

 がっくりと肩を落とすあたしを見て、ロイドさんは「大丈夫ですよ」と慰めてくれる。

「きっと長い時間の仕事は要求されませんから」

「どういうことですか?」

「せいぜい数時間しか働かされません。皆がそうですから、ヒカリも同じかと思います」

「数時間?そんなに短いんですか?」

 この国の労働時間はどうなっているんだ?

 もしかして昼間がすこぶる短いとか?いや、今は夕方だから時間経過は地球とほぼ一緒だと思うのだが……。

「本来は地球と大差ない時間、働くと思います。ただ、今は戦争前ということで国民の意欲がすこぶる落ちています。なにより物資も少なく物価は高騰する一方で、仕事に必要な物を買おうにも、買えない状態です。頼りの綱だった周辺諸国からの物資援助もなくなり、今は経済制裁を受けていますから、明るい話はないと言っていいでしょう」

 それは由々しき事態ではないか……。もはや国として破綻しているのでは……。

「それは……大丈夫じゃなさそうですね……」

「はい。きっと戦争には負けるでしょう。誰もがそう思っていますから、心身ともに疲弊しています」

 

 なんという国に来てしまったのだろう……。

 生粋の日本人であるあたしは戦争なんて経験していないし、物資不足という体験も一回しかしたことがない。

 震災の時の体育館生活が唯一の過酷な環境だった。もちろん家族を失った喪失感の方が大きく、精神的にそれどころではなかったのだが。

「ヒカリがこのタイミングで召喚された事に、私たちも驚いています。まだそんな余力がこの国にあったのかと」

「どういうことですか?」

「召喚には国費が使われます。供物も大量に必要で、そこに割く金貨があったのかと驚いたんです」

「……王族の人たちが身につけている装飾品を売れば、国民はしばらく暮らせると思いますけどね……」

 ロイドさんは乾いた笑い声をあげた。

「これまた的確で真っ当な意見ですね。正常な人間ならそう考えるでしょう」

 痛烈な一言に、あたしも思わず笑った。

 王族が真っ当で正常な人間でないと言い切ったのだ。王族どころか、その人たちを支えているであろう側近たちや国の重役たちまでも突っぱねた。

 まともな考えをするロイドさんに、あたしは強く惹かれた。ここまで国への不満と苦言を言えるなら、信用してもよさそうだ。

「あなた、あんまり大きな声で言わないでよ。見回りの役人に聞かれたら事なんだから」

 ミシェルさんは夫を窘めた《たしなめた》が、王族批判を否定しないところを見ると、概ね考えは同じなのだろう。

「分かってる。でも英語で話すわけにはいかないだろ?ヒカリは英語が出来ますか?」

「いえ……。一般会話も無理です……」

「なら、このまま共通語で話すしかありませんね」

「大丈夫なんですか?役人に聞かれたら、王族に報告されるんじゃ……」

「大丈夫でしょう。そこまでの忠誠心が今の国民にあるとは思えません。でも念のため、声は潜めましょうか。

 ここからは重要な話をします。お茶を飲みながら聞いてくださいね」

 ロイドさんはそう言って、あたしに長い話を始めてくれた。

 


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