再鑑定②
その言葉を合図に、2人がそれぞれ動いた。
魔術師らしき人は以前も見たように、詠唱を始める。
アッシュブロンドの人はただじっとあたしを見ているだけだった。
先に結果が出たのは魔術師の方で、空中に文字が浮かび上がる。
全員が興味を持ってのぞき込み、ヘルムートが僅かに眉をひそめたあと、読み上げてくれた。
「『魔力がある者を殺す力』
魔力を有するもの全てが適応範囲。
魔力量は120」
えっ、それしか分からないの?
思っていた以上に情報が少ない。もっと詳細を色々と知れると思ったのに……。
っていうか、魔力量120って……。低っ!
しかし高官の面々は違って、一様にジトッと鋭い視線を向けて怖い顔をしていた。
唯一ラディウスだけはニヤニヤして楽しそうだ。
「なんだ、この不吉極まりない力は」
翼人の男性が太い声で言った。
「かなりの危険人物じゃない。生かしておくんですか、ラディウス様?」
こちらは獣人の女性。
早速殺そうとしないで頂きたい……。
「そう言うな、エッダ、グスタフ。これはこれで面白いだろう?」
ご機嫌に言うラディウスはあたしをじっと見ていた。
「ヒカリ、戦場で言っていたことは本当だったんだな」
これには少しムッとして、
「当たり前でしょ」
と返してしまった。
あの場で嘘つく理由がある?
「おい、言葉を慎め異世界人」
殺気を込めて言ったのはヘルムート。
ああ、ご主人大好きなタイプかぁ………。
「ラディウス様と軽く言葉を交わせると思うな」
「ヒカリとは戦場で語らった仲だ。うるさく言うな、ヘルムート」
ラディウスが嗜めたけど、エッダもグスタフもヘルムートと同じ考えのようで、あたしを眼光鋭く睨んでいる。
「それにしても、分かることが少なすぎるな。おい、ミハイル」
名前を呼ばれたアッシュブロンドの人はおずおずと「はい……」と返事した。
「お前の鑑定結果を聞かせろ」
ミハイルはあたしから視線を逸らさず口を開いた。
あたしを見ているというより、『中』を見ているような少し遠い目をしている。
「些細な魔力であっても効力を発揮します。防御魔法は効かず、人数制限もないので、効果範囲内にいればその全てが死ぬでしょう。
範囲は本人を中心とした半径5キロ、直径10キロが対象です。範囲を小さくすることは本人の意思で可能ですが、直径10キロ以上の拡大は不可能です。また空は範囲外で、あくまで本人を基点とした平面10キロですね」
す、凄い…………。
見ただけでそこまで分かるんだ……。
「力の発動条件は?」
この質問はヘルムート。
「本人の意思です」
「精神支配魔法をヒカリが受けた場合も、発動は可能ですか?」
「はい。他者に操られたとしても、ヒカリさんが力の発動を意識すれば可能です」
「弱点は?」
「効果範囲が広いので、味方を巻き込みたくない場合は単独で挑まなくてはならない事です。あとは範囲外となる上空からの攻撃です。魔法付与されていない武器は対象外ですから、物理攻撃は届きます」
ヘルムートが次々と投げかける質問に、ミハイルはまるで本を読むかのごとくスラスラと答えた。
ミハイルの力の凄さに驚いてしまったが、今考えるべきはそこじゃない。
あたしの力は考えていた以上に恐ろしいものだった。
効果範囲が思った以上に広いし、微力な魔力を持つものも全て対象。
しかも防御魔法が使えないとなると、効果範囲から逃げるか、あたしを殺すしか生き残る方法がない。
対象範囲外の空から武器を用いた攻撃をすれば、あたしを殺す事は可能そうだ。
ここまで客観的に分析できたのは、あたしがこの力を使うつもりがないからだ。
幸いにも、あたしの意思でしか発動できないらしいから、寝ている間に発動、なんて事態は起こりそうにない。
よかった……。
でも高官方は違って、凄く真剣な顔で話し合っていた。
「精神支配魔法が有効となると、野放しには出来ませんよ」
「十分な見張りをつけないといけねぇんじゃないか?」
「いや、手っ取り早く殺した方が、後々の心配もないでしょ」
「いざという時の貴重な戦力ですよ?みすみす殺すなんてできません。それに、殺す前にこちらが殺されるでしょう」
「なら、いっそ精神支配魔法をかけて服従させておけばいいんじゃねぇか?」
「魔術師が過労死するので却下です」
不穏な言葉しか聞こえてこない……。
まだ本人が目の前にいるのに、もう少し配慮して頂けないだろうか…………。
議論を交わしているところだが、あたしはまだ聞きたいことがあった。
しかし質問を受け付ける雰囲気ではない。それに勝手に口を開いたら叱られそうなので、あたしは黙って挙手した。
喧々囂々《けんけんごうごう》と意見を飛び交わせていた3人はあたしを見る。
「なんですか?」
ヘルムートは嫌そうな顔をしたが、尋ねてくれた。
「あの……あたしからも質問をいいですか?」
ヘルムートがチラッとラディウスを見ると頷いているので、「どうぞ」と先を促した。
あたしはミハイルを見た。
「この力は何回でも発動できるんですか?例えば生涯で1回しか使えないとか、一度使えば半年以上時間を空けなくちゃいけないとか……」
「いえ、そんな事はありません。連発も可能です」
「………あと、あたしへの反動は何かありますか?使ったあとに動けなくなるとか……」
「ありません。力の発動に魔力は使用しませんから、魔力量は関係ありません」
「……なら、力の影響の持続時間は?微力な魔力を含むものも対象なら、動物や植物も入りますよね?枯れ果てた後、どれくらいで再生してくるんでしょうか?」
「さぁ……。そこまでは分かりません」
色々と残念な結果しか聞けなかった。
力の発動によるあたしの副反応はなく、魔力も消費しないから打ち放題だ。
いよいよ殺人マシーンだな。
「どう考えても野放しにはできんな……。打ち放題となると、どの国も滅ぼされる可能性があるじゃねぇか」
「おい、ヘルムート。誰がこんなやつを監視するんだ?」
「立候補者が出るとは思えませんから、詳細を教えず任務に当てるしかないでしょう?」
「だから、どの部隊をつかせるんだ?ウチは嫌だぞ」
「俺だって嫌だ。部下をみすみす殺せるか」
「全員が断ったら意味ないでしょう」
「なら、ヘルムートの部隊がやればいいだろう?」
「―――あとでじっくり議論しましょう」
「…………おい、言い出しっぺが責任を持つもんだろうが」
また好き勝手な話し合いがはじまった。
そんな3人の言い合いを尻目に、あたしは一人思考の海に沈んだ。
あたしはこれからどうなるんだろう?
聞きたいことを全て聞いたが、ろくな力じゃないと分かった。
軍に配属されるのか、キツイ監視がつけられるのか……。
いずれにしろ、兵器として扱われるんだろな……。
ラターナ村でロイド村長と話した旅の話。
いつか色々な国を見て旅をしたいと語らったあの願望は、到底叶えられそうもない。
あたしはそっと気落ちしたため息をもらした。
楽しみにしていたのに…………。
高官の人たちの反応をみる限り、自由なんて与えられそうになかった。
「召喚者の力は随分と多種多様だな」
やいのやいのと議論を交わしている腹心の言葉を無視して、ラディウスは面白うにそう言った。
「そうなると、アザルスが召喚儀式をやめなかった理由もわかる。うちも一度やってみるか?」
「駄目です!」
間髪入れずにヘルムートが怒鳴った。
「あれは大量の供物も必要で、何より魔術師複数人の命と引き換えなんですよ?!しかも高位の魔術師です!育て上げるのにどれだけの時間と労力が必要かお分かりでしょう?それを分かった上で、みすみすそんな事ができますか!」
あたしは新たに知った事実に驚愕していた。
まさか生贄がいたなんて。
そう言えば、魔法陣の傍に焼き焦げたような跡があった……。もしかしてあれなの………?
そう思うとゾッとした。
召喚直後、あたしを睨みつけて涙目になっていた人がいた理由を知り、心がきゅっと縮まった。
あたしが驚いている事など知る由もなく、ヘルムートはラディウスを説得している。
「いいですか?召喚儀式をしたいなどと、二度とおっしゃらないでください!」
「分かった。ほんの興味だ。そう怒鳴るな」
部下にしこたま怒られたラディウスは、悪びれた様子もなく軽い口調でそう言った。
「ヒカリ。今のでお前の力の詳細が分かったワケだが、率直にどう思った?」
ラディウスは楽しそうに目を細めてあたしに尋ねた。
前線で「面白い!」と言っていた時と同じ顔だ。あたしの目には、飛び切りのおもちゃを手に入れた子どものように映った。
「どう、と言われても……。あたしは使うつもりがないので、どこか他人事のようで……」
「使うつもりがない?」
ピクリと眉を不快そうに動かしたラディウスは、「なぜ?」と表情を曇らせた。
「なぜって……。誰も殺したくないからです」
高官3人もラディウスもじっと話に耳を傾け、動かなかった。
「そんな事したくないし、やりたくない。あたしの意思でしか発動できないと分かって、安心してます」
はっきりそう言うと、ラディウスはあからさまな落胆のため息をついた。
「なんだ、面白くない…………」
この一言で、やっぱり魔族なんだな、とあたしは思ってしまった。
命を扱う感覚が違いすぎる。
それとも、国をまとめ上げる立場にいるからなのかな?
「以前、お前の力を見せてみろ、と言ったのを覚えているか?」
「はい……」
「あれはどうする?」
「どう、と言われても……。そもそも約束じゃないですよね?」
あれは一方的にラディウスが言ったことだ。しかも本人の願望に過ぎなかった。処刑台から助ける変わりとか、交換条件でもなかった。
「だが、俺はお前の命の危機を救ったぞ?それに対する礼はないのか?」
「そんなこと言われても……。あの時の事は感謝してます。でもあたしの力は使えません。微量でも魔力を持つものが対象なら、動物も植物も対象なんですよ?なら、10キロ範囲の全ての動植物が枯れるじゃないですか」
至極真っ当な意見を言うと、ヘルムートが口を挟んだ。
「あの者の肩を持つわけではありませんが、一理あります。10キロもの広範囲が枯れ果てれば、生態系にも影響が大きく出ます。それに、再生するまでにどれだけの時を要するか……」
頭が回るらしいヘルムートは、お試し発動に反対のようだ。
「俺は一度やってみてもいいんじゃないかと思うがな」
そう言ったのはグスタフだ。
「アレコレ頭で考えても、机上の空論だろう。それよりも試したほうが早い」
脳筋かな?いかにも現場の武人らしい発言だ。
「エッダはどう思います?」
振られた彼女は、判断に迷っているようだ。唸って難しい顔をした。
「見てみないことには分からん……。だが本人に使う意思がないのなら、発動させるとこはできないんだろう?それこそ精神支配魔法で無理やり発動させるのか?」
「いや、嫌がる本人に無理やり術をかければ、精神崩壊を招く可能性があります。そうなれば、二度と発動はできなくなりますよ?」
精神支配魔法って怖いんだ……。
またやいのやいのと議論が始まってしまう。
これは結論が出るまで、相当時間がかかりそうだ……。
そう思っていると、
「なら、発動せざるを得ない状況にすればいいだろう」
ラディウスが軽く言った。
あたしのことなど欠片も考えていない言葉にどきりとする。
絶対、良からぬ事を考えている。
ヘルムートは主人の良くない発作が出た、という顔をした。
「ラディウス様、何をお考えで?」
「魔獣の森に放り込めばいい。あそこなら10キロくらい不毛の地になっても構わんだろう。除草ができてちょうどいい」
その目は純粋な好奇心の熱しか持ち合わせていなかった。
腹心3人が明らかに目を泳がせる。無言で互いを見て目配せし、表情をうかがっている。
不穏な雰囲気に、あたしの心は一気に雲行きを怪しくした。絶対に良からぬ提案なのだ。
魔獣の森という名前だけでも、危険な生物がごろごろしてそうだし、きっと単身で乗り込む場所でもないだろう。
無言で4人を見つめるあたしの視線に気が付き、ヘルムートは本人の目の前で話す事ではないと思ったのか、
「……その詳細はあとで話し合いましょう」
と話の方向性をずらした。
それがまたあたしの不安を掻き立てる。どうにも嫌な予感がしてならないが、あたしがあとで論じ合いに参加できるはずもない。
話の内容はどうしようもなく変わってしまい、これからあたしをどこに住まわすか、との話題になった。
「これだけの力です。どの国に留め置くか、各国との話し合いが必要です。それが決定するまで間の居住先も、決めなくてはいけません。今のままでは監視も警備も手薄すぎる。なにより、我々の目が届きにくい」
「なら、ここに住まわせばいいだろう?」
またもやラディウスが軽く言った。
これに1番反応したのはエッダで、「ラディウス様のお側に置くのですか?!」と血相を変えた。
「監視もできるし警備も堅い。何が問題なんだ?」
「しかし、ラディウス様の身が危ういのでは?」
ヘルムートの言葉に、ラディウスは鼻で笑う。
「本人が力は使わないと言っているだろう。それに、それを言うなら辺境の地に一人追いやるのが1番早い。その変わり監視も見張りも出来なくなるがな」
もっともな意見に3人は言葉を呑んだ。
「俺はウチの国に貰いたいと志願するつもりだ。面白い力だから傍に置いておきたいからな。予備動作なしでこの俺を殺せる唯一の人間だぞ?こんなに興味深い奴はなかなかいない」
心の底から楽しそうなラディウスは、嬉々とした目であたしを見る。
あたしはそれがひどく嫌だっだ。
人間として見られていない。
そうとしか思えなかった。
「あなたの今後の処遇については、これから話し合います。どの国が引き取るのかも含めて、各国と議論しなくてはいけない」
ヘルムートはそう言うとこの場をお開きにした。
これ以上の話をあたしに聞かせるつもりはない、という事だ。
「とりあえず、近々のうちに居住場所は変わると思ってください」




