表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
終わった後の惨劇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/15

血縁なき家族


 田岸さんは見回り以外に、村の護衛の任務にも勤しんでいた。外から仕入れた情報を教えてくれる事が多く、お陰であたしの耳には様々な情報が入ってきた。


 王族と主要な側近•重役たちは早々に魔族の国、ソルセリルに連行されたらしい。この国に残しておいても、ろくな事にならないと証明されたからだ。

 城にはソルセリルの旗が掲げられ、政治は全て魔族が行っているらしい。日用品、医療物資、食料の補給が行われ、インフラ整備も近々始まるとのことだ。

 内戦のため不在にしていた兵士、回復魔法師も戻ってきたので、診療所は大忙しになっていた。これまで診てもらえなかった患者さん達が一気に押し寄せ、同僚達はてんやわんやしており、「傷薬を大量に作って欲しい」とお声がかかった。

「あれ、凄く効いたってみんなから言われるの」

 たまに挨拶を返してくれていた赤髪の中年女性からそう言われた。

「ずっと言えなかったけど、あなたがやってくれてた包帯の洗濯とか薬作り、凄く助かってたわ。ありがとう」

 働きぶりは必ず誰かが見ていてくれる。

 あたしは泣きそうになってしまった。

 

 たまに食事に来る田岸さんにその事を話したら、

「良かったですね。ヒカリが認められたのは俺も嬉しいです」

 と笑っていた。 

 相変わらず敬語を使う田岸さんだったが、あたし達は何度も顔を合わせるうち、一つ壁がとれたようなフラットな関係性になっていた。ラターナ村の中でも上下関係なく対等に意見を言い、本音の会話ができる貴重な存在だった。

 

 だから、田岸さんだけには力の事を打ち明けた。

「初めてお話するんですけど……」

 あたしの言葉に身構えた田岸さんは、しっかりと時間を作って真剣に話を聞いてくれた。

 

 力の事を伝えると、まるで自分が苦しいような顔で、

「ずっとそれを抱え続けてきたんですか……。しんどかったでしょう…」

 そう言ってくれた。

 ずっと重くのしかかっていた秘密を打ち明けると、大きなしこりが小さくなって、随分と心が軽くなった。

「伝えようか、ずっと悩んでたんです……。でも、話したい気持ちはあたしの勝手な我儘だから――。殺人の力なんて知られない方がいいし、田岸さんを怖がらせるかも知れない……。打ち明けた所で一方的にあたしの気持ちが軽くなるだけで、田岸さんの迷惑になると思って言えませんでした……」

「打ち明けた今はどうですか?少しは楽になりました?」

「はい……」

「なら、お役に立てて良かった。話しても安全な相手と考えてくれて、ありがとうございます」

 その言葉は心の奥にある柔らかい場所に響いた。

 そこには素の自分がいて、田岸さんには一切を打ち明けていいよ、とドアを開けてくれた。ドアの中から温かな風が吹いて、あたしを後押しする。

 ずっと田岸さんに感じていた家族のような温かさ。

 それを打ち明けたい気持ちが溢れた。

 

「――ずっと田岸さんに亡くなった兄の姿を重ねていました……。言葉遣いとか優しさが近くて、自然とそう思っていました……。これも勝手な親近感です。でも田岸さんを兄の身代わりにしているようで、言い出せなくて――」

 飾らない自分を見せられる唯一の相手。

 血の繋がりもない相手からそんな風に思われることは重荷だろう。兄の姿を一方的に押し付けられれば、きっと不快に思うはず。

 ずっとそう思って伝えられなかった。

 

 田岸さんは迷惑そうな顔をせず、優しくほほ笑んでくれた。

「――俺は以前、ヒカリに同じような事を言いました。亡くなった妹に重ねていると。きっと、俺の中で妹への断ち切れない思いがあるからです……。ヒカリを身代わりにして、その心残りを晴らしたいとは思ってません。ヒカリはヒカリだ」

 田岸さんも同じように悩み、考えてくれていた。知らぬ間に、お互いを思いやる感情的繋がりを結んでいたのだ。

「ヒカリは俺を信じて心を開いて打ち明けてくれた。理解者でいてあげられることは素直に嬉しいです」

 あたしの中で温かい何かが膨らんで、胸を一杯にした。

 孤独を感じない居場所ができた。

 そう思うと、家族のような特別な繋がりを感じてひどくホッとする。心は途端に鎧をまとったように強くなり、気持ちに芯が通ったように立ち上がる。一気に自分が強くなったように思えた。

 この世界で得た唯一無二の家族。

 あたしの中で田岸さんはそういう人になった。


 

「すいません、話がかなり逸れてしまいましたね」

 田岸さんは再び、あたしの力の問題に話を戻した。

「『魔力がある者を殺す力』……。魔王の反応から見ても、かなりレアな力でしょう……」

 真剣に頭を悩ませて考えている。

「問題は、ヒカリの力の具体的な内容が分からないことです。魔王は『ヒカリの力を見たい』と言ってましたが、効果範囲や対象人数が分からないと、見せるものも見せられないでしょう?それに、力を使った反動がヒカリにあるのかが分からない」

 反動……。

 普通は何かそういったものがあるんだろうか?

 同じ召喚者達が力を使った所を見たことはあるが、みんな疲労が溜まる様子はなかった。

「田岸さんは力を使った後の副作用?みたいなものはあるんですか?」 

「俺の力は大したことないから……。地図を作るなんて、頭は使っても魔力はそう使わないんじゃないかな?」

 

 田岸さんの力は『地図を作り出す力』。

 白紙の紙があれば、そこに図化できるらしい。でも行ったことがある場所だけなので、今のところ活躍したことはないようだ。

「今までも反動が出たと聞いたことはないですが…。そんな強大な力なら、何か跳ね返りがあってもおかしくなさそうです」

 確かに……。

 強い薬ほど副作用が大きい。それと同じ事だろう。

 他の人はどうやって自分の力のことを知るんだろう?やはり使って確かめるのかな? 

「みんな、自分の力の詳細ってどうやって知るんでしょう?」

「召喚時、力の鑑定が行われて授かった力の種類を教えてもらいます。人を鑑定する魔法は、魔術師の中でも一部の人しか使えません。その人から具体的な事を教えられない限り、みんな手探りになります。

 大抵は害のない力なので、躊躇なく使う人が多いですね。

 俺の場合もそうで、試しに日本の自宅周辺を作図したら出来ましたが、行ったことのないパリを書こうとしたら出来なかった。そこで欠点が分かりました。

 ですから、一番は力を使ってみることです。だけどヒカリの場合はリスクが大きすぎる……。力の強大さから言っても1回限りの能力かもしれないし、使ったあとにヒカリが命を落とす可能性もある。魔力切れとか、力の反動でね。とてもじゃないが、気軽に試せるものじゃない」

「そうなんですよね……。前線に送られた時も怖くて使えなかったし……。力を使う時は、何かイメージしてますか?」

「うーん……表現が難しいんですが………」 

 田岸さんは腕組みして言葉を選ぶように考え込んだ。

「『できる』って分かるんですよ……。確信にも似た気持ちですかね?例えば紙とボールペンがあって、ペンを走らせれば当然書けると思う……そんな感じです」

「…………できて当然、って気持ちですか?」

「まぁ、そんな感じです」

「うーん…………分からない」

「でしょうね」

 苦笑いした田岸さんは困ったようにあたしを見た。

 

 試さないと分からない感覚的な部分が多すぎる。他の人が自分の力を躊躇なく使えるのが羨ましかった。

「魔王がソルセリルに行った後、全員の再鑑定をすると言っていたので、そこに期待しますか」

 召喚者の力の詳細は、アザルス王国の中でもトップクラスの機密情報。書面に残されてはいるだろうが、偽装された内容の可能性もあるので、改めて鑑定するらしい。

「発動条件やデメリットまで教えてくれますかね?」

「おそらく。ヒカリの場合、本人が把握していないと困る部類の力ですからね。無意識で発動したりはしないでしょうが」

 そんな事になれば困る。とても困る。

 殺人マシーンになってしまう。 

「あと……昔いた召喚者に聞いたことがあるんですけど……」

「なんですか?」

 少し言いにくそうにあたしをチラチラと見ている。

 なんだろう?こんな反応をする田岸さんは珍しい。

 相当に言いにくい事だろうか?

「その人は『魔力を感知する力』を持っていたのですが、この世界の動植物、ほとんどに魔力は備わっているらしいです」

 ほとんどの動植物……。

「えっ……?人間……というか、魔法が使える人だけじゃないってことですか?」

「ええ。この世界にはポーションがあります。あれも植物に微量の魔力があるから出来るものです。もちろん、作成者の魔力も使いますがね」

「…………つまり――」

「ヒカリが力を発動すれば、人だけでなく、ほとんどの動植物が死に絶えるということです」

「……………………嘘でしょ?」

「いや……可能性は高いと思いますよ…………」

 とんでもない事になった。

 お試しに力を発動なんて、出来そうもない。

 だって、誰もいない草原で試したとしても一帯が枯れてしまう。もし効果が長いなら、その一帯は何年も草木が生えない不毛の地になってしまうではないか。何年どころか、一生かもしれない。


 考えて青くなったあたしを見て、田岸さんは「深く考えすぎない方がいい」と慰めてくれた。

「鑑定してもらうしか、ヒカリの力の詳細を知ることはできません。効果範囲と力の影響の継続時間、ヒカリへの反動があるのか。力の発動対象はどこまでなのか、同時に何人に対して発動できるのか……。知らなくちゃいけない事は山のようにある」

「はい…………」

「魔王は『ヒカリの力をみたい』と言ったけど、流石に効果が強すぎたら考えを変えるでしょう。自国の土地をめちゃくちゃにしたくないでしょうから」

「そうですよね……」

 あたしは自身の力について、アレコレ考えるのはやめた。

 だって意味がない。

 ない可能性のことまで心配しだしたらキリがない。

 

 それよりも、もっと現実的な事をしよう。

 

「あの、話題を変えてソルセリルについて話し合いませんか?」

読んでいただきありがとうございます!とても励みになっています。


ここでアザルス王国編は終了です。

次回から新章に入ります。


いつも誤字・脱字報告ありがとうございます。助かっております。

感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ