第7場 エピローグ:朝の姿勢
朝が来た。
王都の空気は、どこか澄んでいた。
鳥の声が遠くから聞こえる。
王城の塔の上、旗が静かに揺れている。
その静けさの中、
アラン王子は鏡の前に立っていた。
寝巻きのまま、姿勢を確かめている。
肩を上げては下げ、顎を引いては直し、
何度も、何度も。
「……こう、か? いや、少し背が……曲がっている……」
彼は眉をひそめ、
まるで“王族としての威厳”ではなく、
“人としてのフォーム”を探しているかのようだった。
鏡の中の自分を見つめるその瞳は、
昨夜よりわずかに真剣だった。
――筋肉は、真実を映します。
その言葉が、どこか耳の奥に残っていた。
王子は小さく息を吸い、
背筋を伸ばす。
その動きがぎこちなくても、
ほんの少しだけ、姿勢は整っていた。
***
同じ頃、聖堂の片隅。
マリアはひとり、祈りの前に跪いていた。
光がステンドグラスを抜け、床に模様を描く。
彼女は、ゆっくりと手を組み――
そのまま、腕を伸ばした。
一度、二度。
床に手をつき、体を押し上げる。
聖女候補に似つかわしくない姿勢だった。
だが、彼女の表情は穏やかで、
唇がわずかに震えていた。
「努力は……祈りなのね……」
その言葉は、聖句でも、呟きでもなかった。
ただ、自分の心の筋肉を確かめるような声だった。
外から、鐘の音が響く。
朝の王都が動き出す。
エリザベートの名は、もう口にされない。
けれど、誰もがなぜか、
昨日より少しだけ“姿勢を意識していた”。
そして、物語は静かに次章へ――
《北の領地、沈黙の祈り》
雪の降る地で、
筋肉による再生が始まろうとしていた。




