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筋肉に祝福された悪役令嬢 -静かで狂った筋肉の世界-  作者: 南蛇井


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第4場 王子の動揺

アラン王子は、沈黙に耐えられなかった。

彼の中で、何かがひどく軋む音を立てている。

自分が正しいはずだ。

これは政治の判断であり、道徳の問題であり、感情の話ではない――

そう言い聞かせながらも、

胸の奥に残る“わずかな敗北感”がどうしても消えなかった。

だから、彼は叫んだ。

「君は……冷たい! 民に情がない! そうだ、婚約破棄はそのためだ!」

言葉は熱を帯びていた。

だが、その熱が届く前に、エリザベートの一言が落ちる。

「情とは、筋肉です。」

「……は?」

場の空気が、静止した。

誰かが息を吸いかけて――止めた。

誰かが笑いそうになって――飲み込んだ。

だが、彼女は本気だった。

瞳の奥に、まるで彫像のような真摯さが宿っている。

「他者を支えるには、筋力が要ります。

感情だけでは、人は立てません。」

その声は淡々としていた。

理屈のようで、理屈ではない。

しかし、なぜか“真理”のように響いた。

貴族たちの中で、誰かが無意識にうなずく。

「……支えるには、筋力……?」

「……確かに、比喩として……」

いや、比喩ではない。

エリザベートは、本気でそれを信じている。

そして、その信念は誰の心にも奇妙な形で食い込んでくる。

アラン王子は言葉を失った。

その沈黙の隙間に、別の声が重なる。

マリアだった。

頬に一筋、涙が伝っていた。

「……どうして、泣いておられるのです?」

エリザベートの問いかけは真剣で、

慰めでも、非難でもなかった。

マリアは震える唇で答える。

「わかりません……ただ……美しいと思ってしまって……」

その瞬間、場の空気が完全に変わった。

誰も理解できない。

誰も説明できない。

けれど、“エリザベートの言葉は正しい”という確信だけが、

まるで筋線維のように、会場全体に張りめぐられていった。

王子は立ち尽くす。

彼の正義は、音もなく崩れていく。

エリザベートは、ただ静かに背筋を伸ばしていた。

その姿が、誰よりも「人を支える者」のように見えた。

燭台の灯がゆらめき、

彼女の影が壁に映る。

その影が、王国の形そのものに見えた――。


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