第七場 夜明け ―新しき信仰―
夜明けが、静かに王都を包み込んでいた。
崩れた大聖堂の屋根から、朝日が差し込み、
瓦礫の上に立つ人々の影を長く伸ばしていく。
誰も言葉を発しない。
泣く者も、叫ぶ者もいない。
ただ、息をしていた。
生きていることを、確かめるように。
焦げた石の匂いと、血の匂いの混じる空気の中――
その“呼吸”だけが、確かな音だった。
エリザベートはゆっくりと立ち上がる。
腕や頬には傷があったが、その背筋は真っすぐだった。
「祈りとは、立つこと。
倒れても――また立つこと。」
その声は、鐘の音よりも静かに、
けれど確かに、全ての者の胸に届いた。
ルーカスは目を閉じ、深く頷く。
「……ようやく、沈黙の意味が分かりました。」
マリアは手を胸に当て、涙を拭った。
その瞳には、恐れの代わりに安らぎが宿っていた。
そして、アラン。
彼はゆっくりと膝を折り、
瓦礫に手をつく。
拳を地に沈め、静かに息を吐く。
その姿は――祈りにも、鍛錬にも見えた。
誰もが彼に倣い、同じ姿勢を取る。
兵士も、神官も、民も、皆。
朝日が昇る。
その光の中で、人々の影がひとつになる。
言葉も神も超えて――ただ、
「生きる」という信仰が、そこにあった。
夜明けの光が、瓦礫の間を縫うように差し込んでいた。
まだ煙の立つ王都の空を見上げながら、
ルーカスはゆっくりと息を吐く。
祈りの言葉は、もはや彼の中に存在しなかった。
だが、それを必要とも感じなかった。
彼の周囲で、人々が立ち上がっていく。
血にまみれた腕で互いを支え、
折れた石柱を、再び起こそうとする。
――誰も神を呼ばない。
――誰も絶望しない。
ルーカスは、胸の奥で静かに呟いた。
「神は沈黙した。
だが、人は――動いた。」
風が吹き、崩れた聖堂の鐘がかすかに鳴る。
「それが、奇跡だった。
――肉体は、真理を宿す。」
彼は微笑み、背筋を伸ばす。
そして、朝日に向かって一歩、踏み出した。




