第5場 災厄 ―神の沈黙―
その夜、王都の空が裂けた。
雲を突き破って降り注ぐのは、炎ではない。
――黒い光だった。
それは地を焼くことも、音を立てることもなく、
ただ静かに空気を歪めながら、街を覆っていく。
人々の肌に触れるたび、力が抜け、膝が崩れた。
「な、なんだこれは……!」
「息が……できない……!」
教会の尖塔が揺れる。
鐘が狂ったように鳴り響く。
大聖堂の祭壇前、神官たちが集まり、
一斉に祈りを捧げた。
「神よ! 我らをお救いください!」
「加護を――加護を賜り給え!」
だが、祈りの声が重なるほどに、
黒い光は強く、濃く、街を覆っていく。
「おかしい……封印が……!」
「神の加護が、暴れている!?」
魔力暴走――
それは、教会が長年封じてきた“神の残滓”が、
人の傲慢によって歪められ、瘴気へと変じたものだった。
「神よ、なぜ……応えてくださらぬ……!」
司祭が泣き崩れる。
誰も答えない。
――神は、沈黙していた。
大理石の床に亀裂が走る。
塔が崩れ、炎が舞う。
民が逃げ惑い、泣き叫ぶ。
「助けてくれ! もう、祈っても……何も……!」
そのとき。
瓦礫の陰から、誰かの叫びが響いた。
「筋肉の聖女を――呼べ!!」
その声が、絶望の空気を裂いた。
誰もが顔を上げる。
――北の聖女。
沈黙の中に祈りを見出した女。
祈りが届かぬ夜に、
人々は本能的に悟ったのだ。
神の声が聞こえぬなら、
己の体で立ち上がるしかない、と。
そして、遠く北の空に――
一筋の光が、ゆっくりと王都へ向かって伸び始めた。




