第4場 牢の中の信仰
王都の夜は重く、沈黙していた。
大聖堂の地下――湿った石壁の奥、鉄の扉の向こうに、
かすかな呼吸の音が響いている。
ルーカスは鎖につながれたまま、
背筋を伸ばし、ゆっくりと息を整えていた。
その姿は、まるで牢獄の中でなお祈りを捧げる聖人のようだった。
扉の向こうから、足音。
金属が鳴る。
アラン王子が、薄明かりの中に現れた。
「……すまない。」
その声には、王族の威厳ではなく、人間の迷いがにじんでいた。
「私にはもう……何が正しいのか、分からない。」
ルーカスはゆっくりと顔を上げる。
その瞳は、穏やかに光っていた。
「正しさではなく、姿勢です。」
「……姿勢?」
「立つべき時に、立てるかどうか。
それがすべてです。信仰も、筋肉も。」
その言葉が、地下牢の冷気をやわらげた。
アランは思わず息をのむ。
(立つべき時に――立てるか)
ルーカスは、鎖に縛られた手でそっと胸を押さえ、
ふっと微笑んだ。
「殿下、あなたも鍛えておられると聞きました。」
アランの目が見開かれる。
「なっ……なぜそれを!」
ルーカスの口元が静かに緩む。
「神は見ておられます。
――いや、筋肉が覚えているのです。」
一瞬の沈黙。
そして、牢の奥で二人の影がゆっくりと動き始めた。
しゃっ……しゃっ……
鎖の音とともに、規則的な動き。
王子と囚われの神官が、無言でスクワットを始める。
誰も語らず、ただ呼吸が重なっていく。
下へ、上へ。
下へ、上へ。
やがて、そのリズムは鉄格子を越え、
廊下を伝い、
夜の大聖堂全体に、微かな震えを生んだ。
外の風が窓を叩く。
遠くで鐘が鳴る。
――その夜、王都は確かに“揺れた”。
言葉なき祈りが、筋肉の律動とともに、
静かに広がり始めていた。




