第五話:崩壊の王都 ―肉体は、真理を宿す― 第1場 異端審問 ―“筋肉の神官”たち―
王都の中心、大聖堂。
荘厳なステンドグラスから射す光が、冷たい床に色を落としている。
そこに――ひとり、白衣の神官ルーカスが立っていた。
周囲を取り囲むのは、黒衣の審問官たち。
その中央で、金の十字杖を手にした老神官が声を響かせる。
「……祈りの前に、鍛える、だと?」
沈黙。
ルーカスはまっすぐに、その視線を受け止めた。
恐れはない。胸の奥で、一定の呼吸を続けている。
「はい。」
短く答えるその声は、まるで鐘の音のように澄んでいた。
「鍛えることは、祈りを深める手段です。」
「手段だと?」
審問官長の眉がぴくりと動く。
「神に代わって己を信じるなど――傲慢だ!」
その言葉が空気を裂いた。
他の神官たちもざわめき、
「異端者め」「神の沈黙を侮辱するか」と囁き合う。
だが、ルーカスは微動だにしなかった。
彼はそっと両手を組み、静かに息を吸い込む。
「傲慢ではありません。」
一拍の間。
「これは……姿勢です。」
沈黙。
その場にいた全員が、一瞬、意味を掴めずに息を止めた。
姿勢――?
だが、ルーカスの背筋は、光を受けて真っ直ぐに伸びていた。
祈りでも、抗議でもなく。
ただ、「人」として立つための姿勢。
審問官長は怒りに顔を紅潮させ、杖を振り下ろす。
「拘束せよ! この者を異端として封じよ!」
鉄の鎖が鳴り、兵士たちが近づく。
だが、鎖が彼の手首にかかる瞬間――
ルーカスは小さく、しかし確かな笑みを浮かべた。
(恐れは、もうない。)
(筋肉は、静寂の中にこそ宿る。)
鎖の冷たさの中で、彼の呼吸は乱れなかった。
その心と肉体は、すでに祈りとひとつになっていた。
そして、王都に“沈黙の信仰”の夜が始まる――。




