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第6場 報告の選択
夜。
グランツ館の書斎に灯る燭台の光が、
報告書の白い紙を淡く照らしていた。
アランは机に肘をつき、
静かにペンを走らせていた。
背後ではマリアが記録を整理している。
窓の外では風が雪を運び、
遠くで村人たちの「一、二……」という朝練の掛け声が
まだ耳に残っていた。
「……異端の要素なし。領地は安定。」
アランはそう口に出しながら、書き記す。
淡々とした報告のはずなのに、
その手はどこかためらいを帯びていた。
マリアは机越しに彼を見つめ、
小さく息を吐く。
「……そうですね。むしろ、癒しがありました。」
その声は、かつての“聖女候補”のものではなかった。
祈りではなく、確信を帯びた声。
アランはペン先を止め、
しばし沈黙のまま、紙の上を見つめる。
炎が揺れる。
その反射が、彼の瞳に静かな光を宿した。
そして――
ゆっくりと、最後の欄に書き加える。
『彼女は信仰を超えた。
もはや、神の代弁者ではなく、生命そのものだ。』
書き終えた瞬間、
アランは深く息を吸い、
そのまま背筋を正した。
マリアも、同じように姿勢を整える。
言葉はもう、必要なかった。
部屋の中には、ただ――
静かな呼吸と、薪のはぜる音だけが残っていた。




