第4場 夜の対話
夜の帳が降り、グランツ館の窓辺に雪の名残が光る。
静まり返った屋敷の一室、暖炉の炎がわずかに揺れ、
木の香と薪の音だけが空気を支配していた。
アランは、深い吐息をひとつつき、
向かいに座るエリザベートを見た。
「……これは、宗教なのか?」
低い声。
その響きには、疑念よりも――戸惑いがあった。
エリザベートは迷いなく答える。
「いいえ。呼吸です。」
アランは思わず口元をゆがめる。
「呼吸?」
「ええ。」
エリザベートは、炎の明かりに照らされた横顔のまま続ける。
「生きるとは、息をすること。
息をするには、身体が要ります。
身体を保つことは、信仰に似ているだけです。」
淡々と、しかしどこまでも真摯な声音だった。
アランは、何かを言い返そうとして、
ふと、自分の肩に触れた。
最近、王都で密かに始めた鍛錬のせいで、
わずかに張りを感じる――自分でも気づかぬほどに、
彼女の影響を受けていた。
「……お前は、恐ろしい女だな。」
沈黙を破った言葉には、
どこか敬意のような響きがあった。
エリザベートは微笑まない。
ただ、まっすぐに彼を見る。
「恐怖は、未発達の筋肉です。」
アランの喉が、小さく鳴った。
言葉が出ない。
暖炉の火が、ぱち、と音を立てて弾ける。
その一瞬、
二人の影が壁に大きく伸び、絡み合うように揺れた。
やがて、エリザベートが静かに立ち上がる。
「殿下。明朝は鍛錬の礼にお立ち会いを。
百聞は、一動に如かず。」
彼女は一礼し、
揺れる炎を背に、部屋を後にした。
残されたアランは、
胸の奥に奇妙な熱を感じながら――
小さく、深呼吸をした。
「……呼吸、か。」
その吐息は、
いつになく整っていた。




