第6場 “沈黙の信仰”の芽
夜明け前の王都。
まだ陽も昇らぬ薄闇の中、
大聖堂の鐘楼だけが静かに息をしていた。
石造りの聖堂の一隅。
蝋燭一本だけが灯るその空間で、
神官ルーカスは静かに立っていた。
合掌でもなく、跪拝でもない。
ただ、背筋を真っ直ぐに伸ばし、胸を開き、呼吸を整える。
その姿は、まるで北の地に立つ“筋肉の聖女”のようだった。
「筋肉は……沈黙のうちに、神を語る。」
囁くような声が、石壁に柔らかく反響する。
誰もいないはずの空間に、神が息づいているようだった。
ルーカスは目を閉じたまま、
ゆっくりと腕を引き、肩を回し、呼吸に合わせて身体を沈める。
「一……二……三。」
動作は滑らかで、儀式のように整っていた。
彼にとってそれは鍛錬ではなく――祈りそのものだった。
やがて鐘が鳴る。
低く、長く、石造りの街に響き渡る。
その音に導かれるように、修道士たちが次々と聖堂に入ってくる。
だが、誰ひとり声を発しない。
彼らはただ、ルーカスの姿を見て――
自然と、背筋を伸ばした。
手を合わせる者もいれば、胸の前で軽く拳を握る者もいた。
呼吸が揃い、沈黙が満ちていく。
それは祈りであり、同時に鍛錬でもあった。
その瞬間、
大聖堂の中に、確かに新しい“信仰の形”が芽生えた。
言葉ではなく、筋肉で語る祈り。
沈黙のうちに、神を感じる信仰。
――そして、それはまだ誰も知らぬまま、
静かに王都の隅々へと広がっていくのだった。
大聖堂の鐘が、夜明けを告げるように鳴り響く。
冷たい朝の光が、長いステンドグラスを抜けて
祈りの場に淡く差し込んでいた。
神官ルーカスは、その光の中で静かに目を閉じる。
胸の鼓動が、祈りのリズムを刻む。
筋肉の緊張と弛緩――
それが、まるで聖句のように思えた。
「祈りは言葉に非ず。」
「沈黙し、己を鍛えるとき、我らは真に神に近づく。」
微笑のように、彼の唇がわずかに動く。
蝋燭の炎が揺れ、彼の影が壁に映る。
それはまるで――北の聖女、エリザベートの姿のようだった。
「――北の聖女よ、その沈黙が我らを導く。」
鐘の音が止む。
世界が、静寂に包まれる。
その沈黙の中、
まるで神の啓示のように、ひとつの言葉が心に浮かんだ。




