第5場 王子の葛藤
王都・王城の奥、静かな執務室。
月光が磨かれた床に落ち、薄い光の線を描いていた。
アラン王子は書類を乱暴に閉じ、苛立ちを隠せずに立ち上がる。
「なぜだ……なぜ皆、あの女に感化されている……!」
側近たちは顔を見合わせ、口を噤む。
だが、ひとりの若い侍従が意を決して口を開いた。
「……殿下も、少し鍛えられてみては」
室内の空気が一瞬、凍った。
「ば、馬鹿を言うな! 王族が筋肉に頼るなど――!」
そう叫びながらも、
胸の奥のどこかで、言葉が引っかかる。
――筋肉に頼る。
――筋肉で祈る。
その言葉が、脳裏から離れなかった。
夜。
執務室に灯る一本の蝋燭の下で、アランは鏡の前に立つ。
薄衣の下、己の姿を見つめ、拳を握る。
「……十五回だけだ。」
誰も見ていない。
見られてはいけない。
なのに――なぜか胸が高鳴る。
アラン王子は静かに床に手をついた。
一回、二回、三回――
腕が震え、呼吸が荒くなる。
それでも、途中で止められない。
蝋燭の炎が揺れ、汗が床に落ちる。
そして十五回目。
彼は息を吐き、額の汗をぬぐった。
鏡の中。
そこに映る自分は、ほんの少しだけ凛々しく見えた。
「……ふん、これくらい、どうということはない。」
言葉とは裏腹に、
胸の奥には、得体の知れぬ“誇らしさ”が灯っていた。
その夜、王子は生まれて初めて、
心の底から“姿勢を正して”眠りについたという。




