第4場 広がる“信仰”
王都大聖堂――
荘厳な鐘の音が朝霧を揺らし、白い光が中庭に差し込む。
だが、その静寂の中で、
いまや誰もが知る“奇妙な儀式”が始まっていた。
神官たちは祈りの前に、無言で立ち上がる。
背筋を正し、肩を回し、深く息を吸い込む。
ローブの裾が風に揺れ、光がその動作を照らす。
「……せーの。」
修道女たちは互いに呼吸を合わせ、
静かに腰を落とす――ストレッチ。
そしてまた立ち上がる。
それは礼拝ではない。
けれど、誰もがそこに“神聖さ”を感じていた。
手を組むかわりに拳を握り、
賛美歌の代わりに呼吸のリズムが響く。
「吸って――吐いて――沈黙の中に、己を感じなさい。」
中庭に立つルーカス神官が、穏やかに声をかける。
その眼差しは叱責ではなく、理解の光に満ちていた。
「心が沈黙を求めるとき、人は――動かずにはいられないのです。」
その言葉に、若い修道女が涙を浮かべる。
「……これも、祈りなのですね」
ルーカスは小さく頷き、
胸の前で手を合わせ――その手を、拳の形に変える。
まるで誰かへの敬意を示すように。
その様子を見ていた民のひとりが、震える声で言った。
「“筋肉の聖女”の教えが……王都にも届いたのだ……」
噂は瞬く間に広がった。
市場でも、衛兵詰所でも、人々は背筋を伸ばし、深呼吸を始める。
「姿勢を正せば、心も正される。」
「祈る前に、まず動け。」
――いつしか王都の朝には、
鍛錬の音と祈りの鐘の音が、同時に響くようになった。
風が吹き抜ける。
ルーカスは天を仰ぎ、小さく呟く。
「エリザベート・グランツ……あなたの沈黙が、
王都全体を動かしている。」
その瞳に、神ではなく――
遠く北の地の聖女の姿が、確かに映っていた。




